今回は、名義貸し状態の株式である「名義株」の注意点を見ていきます。※本連載は、南青山M’s法律事務所代表・弁護士・公認会計士の眞鍋淳也氏の共著『今すぐ取りかかりたい 最高の終活』(青月社)の中から一部を抜粋し、本人も存在を忘れているなど意図しない場合も含む「隠れ資産」について、その上手な残し方を紹介します。

高額の現金の「プール」が可能な海外のカジノだが…

「隠れ口座」の番外編として、「事実上の預金」ともいえる特殊な例に触れておきます。

 

富裕層には、海外のカジノで遊ぶのが好きだという方が多くいらっしゃいます。

 

海外のカジノには、高額の現金をプールしておけるシステムがあります。いちいち両替したお金を持っていかずにすむだけでなく、VIP待遇が受けられるために、非常に人気の高いサービスです。

 

VIPになれば、飛行機やホテルの手配、空港からホテルまでの送迎や現地での食事まで、すべて先方持ちで遊ぶことができますから、日々のストレスから解放されて、羽を伸ばすにはうってつけの環境です。

 

そのため、カジノでもうかったとしても、その分を日本へ持ち帰らず、また次に遊びに来るときのための資金としてプールしておくことも多くなります。

 

そんなカジノのプール金の存在は、その性格上、家族には内緒にされがちですが、同時に大切な資産の一部であることには違いありません。早めに引き上げておきましょう。

 

また、ギャンブルでのもうけは、日本の税法上、一時所得になります。一時所得は比較的税優遇されているので、ちゃんと申告しておきましょう。そうすることで、少なくとも税理士には海外財産の存在を知らしめられるため、「隠れ財産」になることを防げます。

はっきりさせておく必要がある「真実の権利者」

すでに触れたとおり、保有されている上場株式はウェブ上で一元管理されています。ですから、自分がどんな株式をどれくらい持っているかを把握することは、そう難しくありません。

 

株式で注意が必要なのは「名義株」です。株主名簿に載っている株主と実際の出資者が一致していない、名義貸し状態の株式を名義株といいます。

 

実際の出資者が本当の所有者ですが、株主名簿には記載されないので、名簿からはわかりません。さらに、多くの場合、出資金の出所に関する証拠、つまり実際の出資者の手がかりも残されません。あくまで、名義を借りた人・貸した人との間で合意があるだけです。

 

2006年の新会社法施行により、出資者・取締役が1人でも株式会社の設立が可能になりましたが、それまでは高いハードルが設けられていました。1990年の商法改正以前は、株式会社の発起・設立には発起人(=お金を出資し、会社になったあとは株主になる人)が最低7名も必要でした。

 

こうした事情から「金はオレが出すから、名前だけ貸してくれないか」というやりとりが行われました。そのような経緯で設立された会社には、現在でも株主がぴったり7名で、名義株ばかりだという例がめずらしくありません。

 

また、本来あってはならないことですが、「創業融資制度」を利用するために、すでに会社を経営している経営者が、他の人を株主にして新しい会社をつくるケースもあります。創業融資制度は、新たに事業を始める人や事業を始めてまもない人が、無担保・連帯保証人なしで融資を受けられる便利な制度です。

 

株主として表立って名前が出ることを嫌い、ほかの人から名義を借りる行為は、やはりあってはならないことですが、実際にはしばしば見受けられるケースといえます。

 

このようにして、名義株の問題が発生してきました。

 

所得税に関する通達によれば、所得税には「資産から生ずる利益を享受する者が誰であるかは、その利益の起因となる真実の権利者が誰であるかにより判定をすべきだが、それが明らかでない場合には、その資産の名義人が真実の権利者と推定する」と言うルールがあります。言い換えれば、「真実の権利者」が誰なのかをはっきりさせておく必要があります。

 

あなたが名義株の実際の出資者であり、かつその株を遺族に継がせたいと思うのならば、株式名簿上の名義人から自分に名義変更する必要が出てきます。

 

かつて出資した会社が順調に成長し、大きな資産を築いていれば、名義変更の対価は高額になってしまうかもしれません。逆に、当人どうしの関係性によっては、快く無償で名義変更に応じてくれるかもしれません。

 

名義株の問題は、名義を借りた人・貸した人の双方に判断能力があるうちに片づけておくことが望ましいでしょう。どちらかが亡くなってしまうと「言った」「言わない」で問題がややこしくなってしまいます。

 

出資者であるAさんからの依頼で、名義株を持っているBさんとの間に書面を交わしたことがあります。「Bさんが持っている株式の実質的な所有者はAさんです」という内容を、確認書として文書化したのです。

 

名義変更をする選択肢もありましたが、今後、相続が発生した際に、Bさん以外の名義株の持ち主も含めてまとめて整理することにしました。これにより、株式の贈与や譲渡の発生が避けられるメリットがあったためです。

 

もちろん、最初から書類が交わされていれば、問題は最小限に抑えられました。書類の中に「株式の名義はいつでも変更できる」という項目が盛り込まれていると、より好ましかったでしょう。

 

あとになってから書類をつくる場合は、「名義はBさんであるが、実質所有者はAさんであることを確認する」という項目を入れておきましょう。

 

自分の死後、名義株や会社が名義を貸している相手のものになっても構わないのであれば、こういった策を講じておく必要はありません。

 

 

 

眞鍋 淳也

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員

一般社団法人社長の終活研究会 代表理事 弁護士/公認会計士

 

山本 祐紀

株式会社ローツェ・コンサルティング、山本祐紀税理士事務所代表

税理士

一般社団法人社長の終活研究会 理事

 

吉田 泰久

プルデンシャル生命保険株式会社エグゼクティブ・ライフプラニンナー

ファイナンシャルプランナー(日本FP協会認定)

宅地建物取引士

今すぐ取りかかりたい 最高の終活

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青月社

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