自分の名義にしたくない「隠れマンション」のケース
今回は、不動産の場合を見てみましょう。
ある社長さんは、お金だけを出し、自分の部下に名義だけを借りて、マンションを実質的に所有していました。そのマンションには、愛人とその間にできた子ども(認知済み)を住まわせていたのです(図表、事例①)。名義人の部下が体調を崩したため、マンションの名義を今後どうすればいいのかというのが、相談の内容です。
もし名義を貸している部下が亡くなれば、部下の相続人は、お金を一銭も出していないにもかかわらず、マンションの所有権を主張することができます。
もしそうなったら、愛人と子どもは安心して住み続けることはできません。「マンションの名義は故人(部下)だけど、お金を出したのは自分(社長)なので名義を返してほしい」と伝えても、裁判を起こして勝たないかぎりは難しいでしょう。
その対策として、自分がマンション購入資金を貸したことを証明する金銭消費貸借契約(金消契約)を、部下との間で結んでもらいました。先述のとおり、所得税の実質所有者のルールをはっきりさせておかないと、贈与税の問題も発生します。そのため今回は、口約束ではなく、書面で残したのです。金消契約を結ぶことで、贈与税の問題をクリアにできました。
別の社長さんは、自分がお金を出して買ったマンションに、愛人との間に生まれた子どもたちを住まわせていました。このマンションの名義人は愛人です(図表、事例②)。
[図表]隠し物件の整理
この社長さんもがんを告知されたので、自分の死後のことに関して私に相談してくれました。愛人の住む愛人名義のマンションの存在が、自分の家族との間でトラブルになることが、社長さんの大きな悩みでした。
そこで私は、マンションの購入資金を出したのは自分(社長)であるとはっきりさせたうえで、マンションを愛人に生前贈与する手続きをしてもらいました。もちろん、贈与税の負担が生じることは承知の上ですが、何よりも、家族とのトラブルを避けたかったのです。
このケースとは逆に、自分の事業が破綻したときに備えて、別人名義の「隠れ物件」にしている経営者の方もいらっしゃることでしょう。名義にしている相手にはそこまで話していなくても、自分の中ではそうしたつもりである場合もあります。事情はさまざまです。
隠れマンションを持つ場合、自分の名義にしたくないのであれば、別の個人の名義とするのではなく、法人名義にしておく手段にも一考の余地があります(図表、事例③)。自分が経営している会社とは別法人でもかまいません。
その法人の株式をあなたが保有すれば、物件を自分のコントロール下におくことができます。個人名義と異なり、自分や名義人が亡くなったときにトラブルになる心配もありません。
海外不動産は「制度や商習慣の違い」の把握が不可欠
海外に不動産をお持ちの方は、ぜひこの機会に詳しく調べていただくとよいと思います。制度や商慣習の違いを正確に把握しきれておらず、自分の認識と事実が異なっている場合がありえるからです。
最近では、フィリピンやベトナムなど成長の著しいアジア各国に、投資用の不動産を購入する方が増えています。「確実に値上がりする、もうかる」と押し切られて購入し、詐欺に遭っている方も多いようですが・・・。
これらの投資用不動産は、国によっては所有権ではなく使用権しか売買できないケースもあるので、要注意です。「日本と同じ感覚で所有権だと思い込んで購入したが、よく確かめてみたら使用権しかなかった」といったことがありえます。
自分では資産価値があると思って残したのに、いざ相続となったときに「資産価値はゼロ」では、残された人にとってもショックです。専門家に調べてもらうのもひとつの手です。
また、海外不動産とは異なりますが、近いものとして、海外の高級ホテルの一室を複数人で分割所有・利用できる「タイムシェア」の権利があります。意外かもしれませんが、タイムシェアの権利は、日本の会員制施設の会員権と同様、相続することが可能です。