本連載は、南青山M’s法律事務所代表・弁護士・公認会計士の眞鍋淳也氏の共著『今すぐ取りかかりたい 最高の終活』(青月社)の中から一部を抜粋し、本人も存在を忘れているなど意図しない場合も含む「隠れ資産」について、その上手な残し方を紹介します。

洗い出しが必要な「メインバンク以外」の口座

故人の銀行口座から預金を引き出したり、口座を解約することは、遺産分割が成立していないかぎり、基本的に不可能です。

 

遺産分割の成立後でも、相続人全員の同意が必要となります。もし連絡の取れない相続人がいれば、それぞれの口座について遺産分割の調停を裁判所に申し立て、調停が成立しなければ、審判を受けなければなりません。

 

たとえば、10万円の残高がある故人名義の預金口座を、全部で10人いる相続人のうちのひとりが見つけたとします。この口座を解約するためには、10人全員分の戸籍謄本と印鑑証明、同意書が必要です。「面倒だから、もういらない」という気持ちになってもおかしくありません。

 

本人が口座の存在を忘れていたばかりに、家族に知られることなく「隠れ口座」になってしまう事態もしばしば起こっています。

 

こういった見つけられずに放置された口座は「休眠口座」となり、そのまま預け先の銀行のものになります。「休眠口座」と呼ばれるのは、最後に入出金を行った日や定期預貯金の満期日から一定以上の期間(銀行では10年、ゆうちょ銀行では5年)が経過し、かつ預貯金者本人と連絡のつかない口座です。休眠口座の預金総額は、国内全体で毎年800億円以上にものぼるそうです。このなかには「隠れ口座」の預金額が相当数含まれていると思われます。

 

日本の銀行では、10年以上経った休眠口座でも、適切な手続きさえ行えばお金を引き出すことができます。一方、海外の金融機関には、1年間入出金がないと口座がクローズされてしまい、取引を再開するには改めて手続きが必要になるところもありますので注意が必要です。

 

また、あなたが持っている口座は、現在のメインバンク以外にもあるはずです。ご自分の金融機関、銀行・証券会社の口座を、いまのうちに洗い出しておきましょう。そして、使用頻度の少ない口座や少額の口座は解約してしまいましょう。

休眠口座となるリスクが高い「借名口座」

家族にお金を残してあげたい、相続税対策をしたいといった理由から、子どもや孫などの名義で口座をつくり貯金することが、広く行われています。これを「借名口座(しゃくめいこうざ)」といいます。税制上の考え方では、借名口座は、その名義人が口座の存在を知らなければ、その口座をつくった人(お金を預け入れた人)の資産と見なされるのですが、その性質上、口座の存在を名義人には秘密にしているケースが多いようです。休眠口座となるリスクが高いのは、借名口座の宿命ともいえます。

 

せっかくの気持ちを無駄にしないためには、確実に引き継ぐための準備が必要です。どのように引き継ぎたいかシミュレートし、できれば、事前に口座の存在を引き継ぎたい相手に伝えておくとよいでしょう。

 

参考までに、私が相談を受けた事例をお話ししましょう。事業がうまくいかず、自己破産をせざるをえない状況におちいっていたAさんの実例です。

 

Aさんのお祖父さんは、孫の可愛さから、Aさんが小さい頃からAさん名義の口座をつくってくれていました。お祖父さんはある上場企業の実質的なオーナーのひとりでもあったので、口座の残高は5000万円もありました。

 

その5000万円は、すべてAさんのお祖父さんが預金したものですから、実際はAさんのものではないという解釈もできそうです。贈与税の問題はさておき、もしAさんのものだったとしても、Aさんが自己破産すれば債権者に分配されてしまうかもしません。心配したAさんは「どうにかしてこの5000万円を守りたいのですが、方法はないでしょうか」と泣きついてきました。

 

まぎれもなく口座の名義人はAさんです。このままでは、5000万円が分配の対象になる可能性が高いと思います。

 

私たちは、Aさんには、リスクはあるものの、祖父の実質的な預金であり、Aさんの預金ではないとして破産することを提案しました。

 

さらに、祖父の実質的な預金であるという証拠をそろえました。例えば祖父がすべて預金通帳、カード、印鑑を管理しており、祖父が本預金の原資を入れていることの証拠をそろえるとともに、祖父とAさんとの間で「A名義の預金であるが、祖父がすべて出捐したものであり、祖父の実質的な預金であることを認める」覚書を締結しました。

 

上記証拠をそろえた上で、5000万円の預金はAさんは持っていないとしてAさんは自己破産しました。最終的に破産管財人と話し合い、5000万円のうち、500万円を祖父が破産財団に拠出することで和解が成立し、4500万円は守ることができたのです。もし、Aさんをはじめとするご家族が最初からこの口座に気づかず、破産をしていたら、5000万円すべてを取られ、ひどいことになっていたのではとも考えられます。

 

 

眞鍋淳也

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員

一般社団法人社長の終活研究会 代表理事

弁護士/公認会計士

 

山本 祐紀

株式会社ローツェ・コンサルティング、山本祐紀税理士事務所代表 税理士

一般社団法人社長の終活研究会 理事

 

吉田 泰久

プルデンシャル生命保険株式会社エグゼクティブ・ライフプラニンナー

ファイナンシャルプランナー(日本FP協会認定)

宅地建物取引士

今すぐ取りかかりたい 最高の終活

今すぐ取りかかりたい 最高の終活

眞鍋 淳也 山本 祐紀 吉田 泰久 

青月社

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