被保険者の死亡時に必要な「受取人による申請」
家族に内緒で生命保険に加入し、受取人に対しその資格があることを隠している場合はどうでしょうか。契約者が勝手に決めたことですから、当然、受取人本人も自分がそうであることを認識できていません。
被保険者が亡くなったときは、受取人が保険会社に保険金支払いを請求することで、はじめて保険金が支払われます。原則として、保険会社のほうから受取人に知らせる義務はありません。受取人の権利なので、受取人が請求する必要があるのです。
「ある日突然、通帳の残高が増えていた。父の生命保険金だった」などという美談は、現実にはありえないのです。
したがって、受取人には「○○社の生命保険に入っていて、あなたが受取人になっている」「もしものときは、あなたから保険会社に請求すること」と話しておかないと、せっかくの保険金を受け取ってもらうことができません。
10年ほど前、保険金の不払いが社会問題となりました。その影響で、今日では被保険者の死亡が判明した際、保険会社が受取人の連絡先を調べてくれる場合もあります。ところが、契約書には受取人の住所や電話番号が書かれていないため、実際には受取人までたどり着けないことが多いのが実態です。実例をひとつ、見てみましょう。
生命保険に加入の女性が離婚し、受取人を元夫から実の妹に変更しました。離婚後、その女性は都内のマンションで一人暮らしを続け、やがてがんで亡くなりました。
女性の死を知った保険会社の担当者は、受取人である妹さんの連絡先を知らないことに気がつきました。知っている連絡先は、女性の住んでいた都内のマンションの住所と電話番号だけです。
さて、妹さんの連絡先はどこに聞けばわかるのか?
入院先はわかっていたので、まずは病院に「生命保険の保険金を支払う関係でご家族の連絡先を教えてほしい」と事情を説明して尋ねました。
ところが、案の定、「個人情報なので教えることはできません」の一点張りです。
困り果てた末に、担当者は「生命保険の件で連絡を取りたい」という旨を手紙にしたため、マンションの郵便受けに残していきました。その後、群馬県に住む妹さんが部屋の後片づけに訪れ、無事、連絡をもらうことができました。
このように、保険の担当者が機転を利かせて動いてくれることも時にはありますが、基本は受取人本人に認識しておいてもらうべきものだと覚えておいてください。
生命保険の受取人が適切か否を必ずチェックする
もし保険金の受取人が離婚した奥さん(前妻)のままになっていれば、再婚していたとしても、現在の家族は保険金を1円も受け取ることができません。全額が前妻の手に渡ることになります。その前妻が亡くなっていると、今度は前妻の相続人が受取人になってしまいます。
生命保険の受取人が適切かどうかは、必ずチェックしておくようにしましょう。夫婦間であればお互いの生命保険についてわかっていますが、子どもとなると、意外なほど情報共有ができていないものです。子どもが小さいうちに加入していた場合などはとくにそうです。
最近は、トラブル防止の目的もあり、「家族登録」を勧める保険会社も出てきています。契約者だけでなく、受取人の情報も把握しておこうという姿勢ですが、まだまだ徹底されているとはいえません。住所変更があった場合に届け出を怠ってしまうと、その保険会社が受取人に連絡をとる手段は途絶えてしまいます。
やはり、本人どうしの間で伝達を行うのがいちばんです。 「いつか話そう」と思って、そのままになっている保険はないでしょうか?
眞鍋 淳也
南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員
一般社団法人社長の終活研究会 代表理事 弁護士/公認会計士