大家にとって一番嫌なのは「入居者の退去」だが・・・
今さらこんなことを言うのもどうかとは思いますが、大家にとって一番嫌なこととは、いったい何でしょうか。
私自身にとっての答えは入居者が契約を解約すること、つまり退去です。
何度も書いてきましたが、空室になれば収入となる家賃が入ってきません。また、次の募集のためのリフォーム費用も発生します。もちろん傷みの程度にもよりますが、単身用物件でも最低3カ月分、これがファミリー向けになると、何と6カ月分もの家賃がリフォーム費用として飛んでいきます。
お金に羽が生えているのが見えるような気分になります。収入減と不意の出費というダブルパンチ。実際に営業マンから退去の報告を受けると、相当程度気持ちがへこみます。
こんなとき、大家としてはどのように振る舞うべきなのでしょうか?
「なんで退去になったんだよ!」
「何とか引き留めることはできなかったの?」
つい営業マンに向かってそんなことを言ってみたくなります。私自身、何度言葉をグッと飲み込んだかわかりません。ですが、私は代わりにこんなふうに言うことにしています。
「退去報告をいただき、本当にありがとうございます」
こんなことを言うと不思議に思う方も多いかもしれません。
「えっ! 退去報告をもらって本当にありがたいの?」
そんな疑問の声が今にも聞こえてきそうです。もちろん、本音を言えば、退去報告をもらってありがたいことなんか何もありません。でも、まさにそこがミソ。逆転の発想、ないしは「魔法のことば」です。
退去理由を把握し、次の募集に向けた布石に
退去が発生したときに、大家だけが嫌な思いをするわけではありません。大家へ報告する営業マンの身になって考えてみましょう。大家からお叱りや小言を言われるかもしれない、それでも仕事である以上、退去報告をしないわけにはいかない。営業マンにとってもまた、退去報告は一番嫌なことなのです。
だからこそ、私は連絡しやすい環境作りを心がけています。そうすることで、入居者から退去連絡を受けた営業マンは、安心してすぐに退去報告を上げてくれるようになります。
さらに言うと、退去の連絡を受けると、私は必ず入居者に退去理由を確認してもらうよう営業マンへお願いします。家賃が高いのか、設備が古いからか、あるいは、隣の入居者がうるさいからか。
家賃や設備が理由であれば、何らかの見直しが必要かもしれません。隣の入居者がうるさいとなれば、事実を正確に把握し、場合によっては、隣人に対して改善を求めることも必要になってきます。
退去理由の確認は、次の募集に向けての布石になります。そのためには営業マンの協力が不可欠です。だから、何度もご説明したとおり、日頃からきちんとした協力関係を築いておくことが何よりも大切になってくるのです。
そうした営業マンへの想いも込めての「ありがとう」。それが退去報告時に言うべき「魔法のことば」に他なりません。これは経営者にとってもっとも必要な、人間性に関わる部分だと私は思います。
ほとんどの人が、成功とは手に入れるものだと考えている。
でも本当のところ、成功とは与えることなのだ。
ヘンリー・フォード