空室期間の損失は「取り戻せない」
無事に金融機関から融資を受け、物件を購入することになりました。念願の大家となることができ、うれしくてたまらないですよね。
そんな気持ちを削ぐようで申し訳ないのですが、ここからが本当の勝負です。
不動産投資は「不動産賃貸業」であり、あなたはその「経営者」だということを決して忘れないでください。むしろ購入した後にこそ、あなたの経営者としての手腕が問われるのです。
良い経営とはどういうことか? 少なくとも不動産投資について言えば、それは明らかに毎月の収入の最大化です。そして収入の最大化は、物件購入時の現状が満室であればそれを維持すること。もしも空室があれば一日も早く満室を実現すること、によってもたらされます。
当たり前のことですが、空室では家賃をもらうことはできません。別の言い方をすれば、空室がある間、あなたはずっと損をしているわけです。漁に例えるならば、大量の魚を獲ろうと一生懸命網を仕掛けたのに、肝心の網の一部が破れていて、そこから魚が逃げ出しているようなものです。
これが製造業であれば、前月の生産量が少なければ、今月はラインをフル稼働させて、足りない部分を埋めることも可能です。販売業でも、働く人の頑張りは必要ですが、決して不可能なことではないといえます。
しかしながら、不動産賃貸業では空室期間の損失は取り戻すことができません。家賃4万円の部屋が今月空室だったからといって、その損失を取り戻すために、翌月の家賃を8万円に値上げすることはできません。そんなことをすれば借り手がいなくなってしまいます。
せっかく物件を購入したのに、空室がある状態では十分な利益が生まれません。そして逃した空室期間は絶対に取り戻せないのです。だから一室でも多く部屋を貸し、想定どおりの家賃収入を得ること。まさにそこが経営者としての手腕が問われるポイントです。
家賃の引き下げは「短期的には有効」だが・・・
だからといって、簡単に家賃を下げてはいけません。早く空室を埋めて満室を実現したいと思ったとき、家賃を下げるという誘惑に襲われ、それが実際に有効な場合もあります。ですが、短期的には有効であったとしても、長い目で見ればマイナスに働きます。
いきなり売却の話になって恐縮ですが、仮にいつか手放すことになったとき、売却額を決めるのは毎月の家賃収入の総額(ないしは、想定利回り)です。
仮にあなたの物件が10室あり、1室の家賃が5万円としましょう。それを平均的な利回り(コストを引いた実質利回り)8%で売却すると想定します。細かな計算は割愛しますが、毎月の家賃総額50万円、年間では600万円、この場合売却額が約7500万円となります。
ところが、毎月の家賃を2000円上げるだけで、年間家賃総額は624万円となり、売却額は約7800万円という想定になります。利回りは同じ8%でも、300万円もの差が生まれるのです。
入り口だけでなく出口を考えることも、経営の大事な要素です。一時的に家賃を下げることがあるのは仕方ありません。ですが、満室が実現できたならできるだけ速やかに家賃を回復し、それを維持することを心がけましょう。
ところで、今お伝えしたような苦労をしなくても、毎月満室分の家賃が、しかも30年間ずっと入ってくると言われたら、あなたはどんな気持ちになりますか? うれしいに決まっていますよね。
今回の冒頭でお話しした収入の最大化が、最初から達成されるのですから。そんな夢のような話が現実になるとうたっているのが、一般に「サブリース」と呼ばれる仕組みです。簡単にいうと、家賃保証の契約のことです。
詳しくは次回に記載しますが、このサブリースには注意が必要です。空室期間に関わる目先の損失を補うのは、そうした仕組みではないということを、まずここでお伝えしておきます。