今回は、木質バイオマス事業で重要性が増す「熱電併給(CHP)」について説明します。※本連載では、筑波大学名誉教授、日本木質ペレット協会顧問、日本木質バイオマスエネルギー協会顧問である熊崎実氏の著書、『木のルネサンス――林業復権の兆し』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、日本とドイツにおける「木質バイオマス」エネルギー利用の現状と今後の展望を探ります。

風力等による安価な電力が出回り、バイオマスは窮地に

木質バイオマスを使う発電プラントの多くは、これまでベースロード電源として運転されてきた。つまり、プラントを1日24時間、年間8000時間以上運転して、発電量を最大にすることが目標になってきた。

 

しかし、風力や太陽光による安価な電力が大量に出回るようになると、発電コストの高いバイオマスの電気に期待されるのは、風力や太陽光の利用できない時間帯での電力供給である。ベースロード電源から調整電源への移行といってよい。

 

ただし、そのためには新しい電力市場が必要である。前述したように、2012年あたりから「市場統合」を視野に入れて、再生可能エネルギーの発電事業者に対し、生産した電気の「直接市場販売」が推奨されるようになった。

 

その売り先となっているのが欧州電力取引所(EPEX)の先物市場だ。ここでは、1時間ごとに需給調整がなされている。毎日午前10時頃になると翌日の24時間分の約定価格が公開され、電気事業者は、それを睨みながら価格と量を組み合わせて入札することになる(前日市場)。

 

この約定価格を決めるベースとなっているのが、翌日の時間ごとの総電力需要の予測と、気象予報などから推定される風力・太陽光の発電量である。

 

前者から後者を差し引いたものが「残余需要」と呼ばれる電力で、この部分は風力・太陽光以外の電源で賄わなければならない。残余需要の大きい時間帯ほど約定価格は高くなるだろう。バイオマスプラントの場合は、この時間帯を狙って発電するような熱電併給のシステムにしておけばよい。

風力や太陽光と同じ土俵で競争するのは「愚かなこと」

厄介なことに、EPEXタイプの電力市場では、限界費用の低い電気から順に受け入れられていく。

 

風力や太陽光は天の恵みだから、これを使って発電すれば燃料費はゼロになり、スポット市場では圧倒的に強い。現に、EPEXの市場でも自然変動電源からの電気の流入が増えるにつれて、電力の卸価格が見る見るうちに下落していった。

 

ベースロード電源となっていた石炭火力などは、燃料費の割合が高く、大変な窮地に追い込まれている。バイオマスのプラントでも従来どおりのベースロードの発電を続けていたら、同じ運命を辿ることになろう。風力や太陽光と同じ土俵で競争するのは、誠に愚かなことである。

 

以上のようなわけで、電力のスポット市場には、自然変動電源の不安定性を一定の範囲内で緩和するメカニズムが組み込まれているが、風力・太陽光による電力の供給がさらに増えてくると、需給を調節するための予備の容量を確保しておく必要がある。

 

ドイツでは、すでに「コントロール・リザーブ」の市場ができていて、バイオマスプラントも6カ月前の入札で、この市場に参加することができる。認定されれば、設備容量を持つこと自体に固定費が支払われ、グリッドオペレーターの要請に応じて電力を供給すれば、その量に応じて対価が支払われる。

木のルネサンス――林業復権の兆し

木のルネサンス――林業復権の兆し

熊崎 実

エネルギーフォーラム

森林政策の第一人者が、地域における「エネルギー自立」と「木材クラスターの形成」を説く。

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