主観的な表現では、何も伝えていないのと同じ
前回の続きです。部屋の大きさは、畳数でも平米でも使いやすいほうを選びます。その際に重要なのは、この部屋は最低でも10畳欲しいといった表現をすること。「広めに」といった表現は何も伝えていないのと同じです。主寝室は10畳あるのが理想だけど、他の部屋との兼ね合いがある場合は8畳でも許容範囲といった情報をきちんと伝えます。
居住性に関する要望は優先順位が高いものばかりです。暖房設備は家が完成してから考えればよいという建築業者もいます。また、床暖房など必要ないと本気で考えている建築業者もいます。このため、暖房方式や暖房器具は建て主の希望で選ぶことが大切です。床暖房の家に住みたければ、床暖房の家が欲しいと要望書に記入します。
部分的な床暖房では満足できないのであれば、家全体を蓄熱式床暖房にしたいと書きましょう。
[図表]要望書の記入例
建て主と建築士の「イメージ・価値観の齟齬」をなくす
なぜこうした要望書が必要なのかというと、建て主の家に対するイメージや価値観などについて、建築士には知る手段がまったくないからです。そういうと建て主の中には「あなた方は建築のプロなんでしょう」と反論する人がいます。
しかし、6畳の部屋を広いという人もいれば、20畳あっても「狭い」と感じる人もいます。収納設備はたくさん欲しいというとき、どこから「たくさん」になるのでしょう。建て主には、こうしたイメージや価値観を具体的な数字で設計者に伝える役割があります。
現在住んでいる自宅の間取りがあれば、必ず持参しましょう。何もそれを参考に似たような間取りにする、ということではありません。
「今の浴室よりも大きくしたい」「納戸は今と同じぐらいの大きさが欲しい」「キッチンが暗いので今と違う位置に配置したい」などと、間取りの満足・不満を表す尺度となり、建築士と建て主との共通の基準として利用できるからです。
紙1枚の要望書が、家の居住性・快適性を大きく左右することがあります。何を優先するのかを家族で相談し、まとめ上げていくのも楽しい作業です。