大手ハウスメーカーの建築費は、販売経費の比率が高い
家の「設計」と「施工」を別会社に任せるのは得策ではありません。では、基本的に設計・施工が一体の大手ハウスメーカーはどうでしょうか。
大量に広告宣伝を流しているので、知名度が高く、親しみがあり、建て主に安心感を与えています。会社の規模も工務店とはまったく異なるので、倒産のリスクがないと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
実際、かつて住宅御三家といわれていた「日本電建」「太平住宅」「殖産住宅」はいずれも倒産や事業譲渡してしまい、今では無くなってしまいました。
また提供している住宅は、商品をパッケージ化しており規格外の設備はオプション扱い(追加費用)とする、宣伝広告費はもちろん、大量に在籍する営業担当者の人件費は販売経費として建築費に上乗せするといったデメリットがあり、工務店に比べるとその建築費は明らかに割高です。大手ハウスメーカーの中には、社員の大半を営業担当で構成している会社もあります。販売会社に特化することで、高い利益を上げているのです。
そもそも日本には、家の設計料を支払う習慣が根付いていません。設計料がもったいないからと、大切な自宅の設計をハウスメーカーの営業担当に依頼して間に合わせる建て主もいるほどです。しかし、その営業担当者の設計は無料ではなく、その人件費は販売経費として計上されています。大手ハウスメーカーの建築費が高いのは、建築費に含まれる販売経費の割合が大きいからです。
こうした仕組みから発生する施工の下請け制度にも問題があります。大手ハウスメーカーから建築工事を受注した下請け業者は、各業種の職方に工事を分離して発注します。各業種とは、大工をはじめ屋根や板金、左官、タイル、建具、塗装、内装、ガス、電気、水道など約20業種に及ぶ職方のことです。下請けの建築業者は、自分たちの利益を優先して職方の賃金を値切るため、各業種の職方はぎりぎりの予算で働いています。
工務店は「建て主の意向」に柔軟な対応が可能
大手ハウスメーカーのこうしたデメリットを解消するのが工務店です。設計から施工まで一貫して自社で行う会社、棟梁をはじめとする数人で施工だけを請け負う会社、外部の建築士や設計事務所と提携してデザイン性の高い家を施工する会社など、会社の形態や方針、規模はさまざまです。
パッケージ商品を売り込む多くの大手ハウスメーカーとは異なり、仕様に制限のない自由設計を特長とする会社が多いため、建て主の意向やこだわり、敷地条件などをくみ取る柔軟性を備えています。
また、地域に密着している工務店は、気候風土や土地の慣習、交通状況などにも細やかに対応できます。高気密・高断熱、自然素材、オリジナル工法などを研究して家づくりに取り入れる会社も増えています。
あえて難点を挙げると、販売するプランが規格化されていないため、職人の腕次第で仕上がりに差が出やすくなることです。
その問題を解消するため、私の会社の例でいいますと、基礎、大工、屋根、電気、床暖房、左官など家の基本性能を左右する大事な工事は、10年以上にわたって当社の家づくりに携わっている職人のみが担当する制度を敷いています。
主要職人の大半を専任で固定化できるのは、その会社が職人たちとの間に信頼関係を築いているからです。
職人の待遇を下げてきた建築会社には、決して真似することはできません。 職人の入れ替わりが激しい会社では、職人にとってメリットの少ないアフターサービスなどの仕事がうまくまわらないことがありますが、職人を固定化すればスムーズに対応できます。
トータルで考えると、「工務店の設計の自由度やこだわり・予算感」のほうが、建て主へのメリットが高いように思います。
兼坂 成一
株式会社ウェルダン 代表取締役社長
一級建築士