前回は、家の部材として自然素材にこだわる必要性について探りました。今回は、マイホームをデザイン優先で建ててはいけない理由を説明します。

おしゃれな「吹き抜け」は、防音と耐震性が犠牲に・・・

デザイン面で言うと、最近要望が多くなったのは吹き抜けです。建て主はリビングを吹き抜けにすることを希望しますが、この構造ではリビング内の音が拡大されて上階に伝わります。テレビをつけていると、吹き抜け構造がスピーカーの役割を果たしてしまうので、上階ではおちおち寝ていられないほど響き渡ります。

 

また、2階の床にあるべき構造材を抜いて吹き抜けをつくるので、相対的に見て耐震性も犠牲になります。私は、こうしたデメリットがあるのが分かっているのに、それでも吹き抜けをつくりますかとお話ししています。

 

もちろん。それでも欲しい、という方にはしっかり提案しています。

 

また、屋根の形状で流行しているのが「軒の出が無い家」です。雨漏りの原因の第1位は、軒の出が無い(軒ゼロ)建物です。ぱっと見はとてもスタイリッシュですが、雨漏りのする家に住んで快適なはずがありません。

 

住宅の軒(庇)は、雨を住宅の本体に当てずに下に落とす役割があります。その軒が無かったり、屋根に勾配が無く平らになっている(陸屋根)場合は、水が壁と屋根の境目から侵入するリスクが非常に高まります。屋根の片方が上がり、もう片方が下がっている片流れ屋根も水の流れに逆らっており避けたほうがよいでしょう。

 

特に陸屋根は屋根に通気が取れないため、夏の南中時に太陽がほぼ真上からあたると、大変な高温に見舞われます。陸屋根はマンションやビルなどによく見られる形状ですが、定期的なメンテナンスをしっかり行い防水性能を維持しているのです。そのことをふまえると、一戸建てでは避けたほうがよいでしょう。

 

住宅性能を優先すれば、より充実した家づくりが可能

間取りの形について、近年では斬新なスタイルがフォーカスされることも増えています。例えば大きな中庭があったり、極端に凹凸がある間取りです。建物のバランスが悪く耐震性に劣るうえ、正方形に近い同じ床面積の家よりも外壁の表面積が増えるため、熱の損失が多く、さらに外装材のコストも増えてしまいます。

 

こうした住宅のスタイルは、元来日本には無い形でした。では、なぜ三角形の切り妻屋根や寄せ棟屋根ばかりで、こうしたスタイリッシュな形は今まで無かったのか。

 

それは、先人たちの技術の蓄積の中で淘汰されてきた結果だと思います。

 

デザイン重視の家を建てると、居住性や快適性はどうしても後回しになります。建築士は建て主の要望に沿いながら、デザイン的にも美しい家をプランニングしたと胸を張るでしょう。施工を担当する職人は、設計図どおりにつくっていると主張するでしょう。最初の一歩を除いて、どこにも間違いはありません。ですが、家づくりの最初にデザイン性を優先したために、永く楽しく暮らせる家からは遠ざかります。

 

優先するのは見栄えなのか、あるいは住宅性能なのか。この問いかけは、建て主にとって「よい家とは何か」を問うのと同じです。

 

住宅性能を優先すれば、予算を無駄に使うこともなく、内容がより充実した家づくりを実現できるでしょう。

 

 

 

兼坂 成一

株式会社ウェルダン 代表取締役社長

一級建築士

本連載は、2018年6月3日刊行の書籍『人生が変わる家づくり 一生気持ちよく暮らせるマイホーム』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

人生が変わる家づくり 一生気持ちよく暮らせるマイホーム

人生が変わる家づくり 一生気持ちよく暮らせるマイホーム

兼坂 成一

幻冬舎メディアコンサルティング

一生に一度の家づくりで失敗したくない──マイホームを建てようとする人にとっては当然の願いです。家づくりは、家族の人生にも大きな影響を及ぼす一大イベントです。だからこそ、多くの人が間取りやデザイン、素材、設備など…

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