前回は、アメリカで「不動産価格が上昇しているエリア」の共通点について解説しました。今回は、物件購入の「オファー」をする際の注意点を紹介します。

オファーシートに、希望する「購入金額・条件」を記入

エリアを絞り込んで購入する物件を選んだら、不動産業者を介して、売り主に購入のオファーを入れることになります。第11回で解説したように、アメリカの不動産は早い者勝ちではなく、入札方式になります。

 

オファーシートに希望の購入金額や条件を書き記したうえで提出しましょう。当然、オファーシートの書式は英文ですが、日本の業者であれば書面に起こす作業から提出までを代行してくれるので心配はいりません。

 

ただし、日本でアメリカの不動産を扱っている業者のなかには、自社物件を顧客に紹介している業者が数多く存在します。というのも、一般的にオファー期間は1週間程度です。アメリカの不動産市場の流動性は日本と比較にならないほど高いので、優良物件であればまず1週間以内にオファーが締め切られてしまいます。このスピードの速さについていける日本の投資家はそうそういません。タイミングよく売りに出された優良物件を見つけても、その物件価格に見合ったローンが組めるか否か、銀行の判断を待っている間に、ほかで売り先が決まってしまうのです。

 

そのため、アメリカの不動産を扱う日本の不動産業者のなかには、優良物件を見つけた際にいち早く仕入れ、リフォームし、それを日本の投資家に販売しているケースが少なくありません。体力のある業者であれば、即座にキャッシュで物件を購入することも可能です。現金で即座に決済できれば、交渉を優位に進め、成約に至る確率も高まるのです。

 

現地の売り主から物件を購入するにせよ、日本の不動産業者の自社物件を購入するにせよ、その後のプロセスには変わりありません。

 

 

交渉が成立した段階でエスクローがオープンし、購入希望者は手付金をエスクロー口座に入金することになります。この段階での入金は日本の銀行口座からの振り込みで構いませんが、エスクローがクローズするまでにアメリカの預金口座を開設する必要があります。

 

またエスクロー会社は概算で必要なお金を請求するため、そのクローズの際には残ったお金を買い主に返金します。このとき、手付金を振り込んだ日本の口座でなく、アメリカの預金口座に返金するのが一般的なのです。

 

アメリカの口座は現地に行ってすぐに開設できますが、日本にいながら開設することも可能です。最も簡単なのは、三菱東京UFJ銀行に口座を開設したうえで、同行傘下の米系銀行であるユニオンバンクの口座をネット上で開設する方法です。アメリカの銀行口座であれば問題ありませんので、海外旅行でハワイなどに行った際に口座を開設してくるという手もあります。

抵当権を設定する場合は、公証人の前でのサインが必要

日本の不動産業者を通じてアメリカの不動産を購入する場合、買い主としてやるべきことは、こうしたお金のやり取りと必要書類に目を通したうえでサインをする、という手続きに尽きます。通常、エスクローがオープンした後に、買い主はホームインスペクターを雇って物件に関する調査を行い、インスペクション・レポートを作成することになります。さらに、タイトル保険会社に依頼して、物件の権利関係を調査してタイトル・レポートを作成してもらう必要があります。住宅ローンを利用する場合には、現地の不動産鑑定士(アプレイザー)に査定をお願いしますが、一般的には、これらの手続きはすべて日本の業者が手配を代行します。

 

日本の業者の自社物件を購入する場合には、その業者が購入時に作成したインスペクション・レポートを開示してもらい、改めてレポートを作成する手間を省くケースもあります。住宅ローンを組む際にも、業者が購入時に作成してくれた不動産鑑定書を利用すれば事足りるでしょう。日本の不動産業者が現地で仕入れ、リフォームしたうえで販売している物件であれば、修繕の必要もほぼありません。トータルで見れば、現地の売り主から購入するよりも、必要経費を削減できる可能性もあるのです。

 

インスペクション・レポートや不動産鑑定書、売り主が用意するディスクロージャー・ステートメント等が揃い、最終的な購入価格が決定したら、いよいよ支払いに入ります。

 

 

なお、初めてアメリカの不動産を購入される人に対して、アメリカの銀行がローンを組んでくれることはなかなかありません。アメリカ国内でのクレジットカードの利用履歴や借り入れの返済などによってクレジット・ヒストリーを積み重ねない限り、社会的信用に足る人物だと認められないからです。そのため、ローンを利用する場合は、購入前に日本の金融機関に問い合わせて、ローンの算段をつけておく必要があります。詳細は第4章で触れますが、日本国内の不動産や有価証券などを担保に融資をまとめれば、アメリカの銀行を利用するよりもはるかに低利で借りられるでしょう。

 

ローンが下りたら、銀行は直接エスクローの指定口座にお金を振り込みます。あとは、エスクロー会社がまとめた売買契約書にサインするだけです。この契約書は膨大なページ数になりますので、電子サインを用意しておくといいでしょう。日本の優良な不動産業者であれば、エスクローからメールで送られてくる英文の契約書を要訳して説明してくれます。読み合わせながら、必要箇所に電子サインを判子の要領で押していけば契約は完了します。

 

ただし、購入する物件に抵当権を設定してローンを組む場合(アメリカの銀行のローンを利用する場合等)は、ローン書類へのサインを公証人の目の前で行う必要があります。日本人の場合は、東京、横浜、大阪などの大都市の公証役場であれば、資格を持った公証人がいます。さらに、アメリカ大使館や領事館には必ず公証担当官がいるので、このいずれかに足を運んでサインをすることになります。一見、面倒な作業ですが、実際には社会科見学気分でアメリカ大使館への訪問を楽しみにされている方も少なくありません。パスポートと、5000円ほどの手続き費用を持参して、公証担当官の目の前でサインするだけですが、遠く離れたアメリカの不動産を購入したという実感が得られるのでしょう。投資へのモチベーションを高めるためにも、一度は大使館や領事館で手続きしてみることをお勧めします。

 

このような手続きを済ませると、エスクロー会社は所有権が譲渡される日(登記日)に、売り主に対して購入代金を振り込み、物件を仲介した不動産業者やタイトル保険会社等の関係者への支払いを済ませてクロージングとなります。精算して余ったお金は、買い主に返金されます。実際、エスクローがオープンして、クローズするまでの期間は30〜45日程度です。日本人がアメリカの銀行でローンを組む際には審査に時間を要するので、クローズまでにさらに時間がかかることもあります。

 

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本連載は、2017年8月31日刊行の書籍『戦略的アメリカ不動産投資』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

戦略的アメリカ不動産投資

戦略的アメリカ不動産投資

井上 由美子

幻冬舎メディアコンサルティング

日本人の多くが将来の不安を打ち消すために、せっせと預貯金に励んでいます。今の日本は、将来に対する過度な悲観論がデフレマインドを助長し、本来あるべき経済の成長を押しとどめているように感じています。国の健全な経済の…

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