高騰する家賃・・・毎年1~3%の値上げも珍しくない
アメリカの不動産市場は年率約2%の成長を遂げています。人口の増加に伴い、不動産の需要は下支えされ、経済成長とともに〝健全なインフレ〞が継続しているため、不動産価格も家賃も値上がりを続けているのです。そのため、1年ごとに1〜3%の家賃の値上げも珍しくありません。
アメリカの大手賃貸情報サイト「Zumper」は毎年、各都市の賃料の推移に関してレポートを公表しています。2015年には、カリフォルニア州サンフランシスコの1LDKの賃料の中間値は前年比で13.9%、2LDKで21%も上昇したと報じていました。サンフランシスコは、1LDKの家賃相場が3500ドル前後という超人気都市です。つまり、単純計算すれば1年で500ドル(3500ドル×13.9%=486.5ドル)近く家賃が値上がりしていたのです。
急激な家賃上昇を取り締まる「レントコントロール」
ただし、このように家賃が異常な高騰を続けるエリアには、「レントコントロール」が導入される傾向にあります。文字どおり、家賃(=レント)に対する取り締まり(=コントロール)が行われます。急激な家賃上昇によって、既存の入居者が不当に追い出されることがないよう取られた措置です。
例えば、ロサンゼルスでは1978年以前に建てられた2戸以上の物件について、家賃値上げ率の上限が3%に定められています。サンフランシスコでも、レントコントロールが導入されています。1979年以前に建てられた物件の家賃引き上げ率は、サンフランシスコ市が規定するCPI(消費者物価指数)上昇率(2016年3月以降は1.6%)の範囲内にとどめるとされているのです。同じくカリフォルニア州のサンノゼになると、少々緩くなります。1979年以前に建てられた物件のうち、2戸までの戸建て・タウンハウス(長屋)・コンドミニアムを除いた物件に対して、家賃の値上げ率を1年で最大8%ないしは2年で最大24%と定めているのです。
こうしたレントコントロールは、不動産価格が右肩上がりで上昇を続ける大都市では導入されているケースが多く、当然、アメリカで不動産投資を行う人からすれば、収益の最大化を妨げる材料となり得ます。しかし、新規の入居者との契約ではこのレントコントロールが適用されない場合が多いことから、その点を悪用して、既存の入居者を追い出しにかかるオーナーが増え、カリフォルニア州では何度も住人と不動産オーナーとの間でトラブルが生じているのです。
もちろん、私はそのような方法はお勧めしません。それであれば、レントコントロールを念頭に入れて、「物価上昇に合わせて、毎年レントコントロールの上限分だけ家賃を引き上げる」という条件を契約書に盛り込んでおくほうが得策でしょう。実際、私の顧客のなかには、レントコントロールに定められた上限にのっとって「毎年3%家賃を引き上げる」という条文を盛り込んで、借り主と賃貸借契約を結んでいる人がいます。そんな条件を付けても、入居者は毎年契約を更新しています。決して不当な値上げではないということを、入居者も理解しているのです。
これが日本であれば、「消費者に不利な契約だ」と非難されかねません。そもそも、オーナーの頭のなかに家賃を上げるという発想も少ないでしょう。日本で賃貸マンションを保有しているサラリーマン大家さんに、アメリカの話をすると、まず「家賃を上げられるのが信じられない」と驚かれます。日本の普通の物件で入居者に家賃を上げると告知しようものなら、クレームが入るのは必至です。値上げ分を無視してそれまでどおりの家賃を払いながら、居座り続ける人も出てくるでしょう。しかし、一定の家賃が支払われていれば、強制退去させることはできません。それほど、日本は借り主の保護に手厚い国なのです。
余談になりますが、アメリカでは日本人の入居希望者は非常に喜ばれます。靴を脱いで生活するため、カーペットやフローリングが傷みにくいうえ、その国民性からか「きれいに使ってくれる」という印象を持たれているようです。実際、私の顧客のなかにも「家賃を下げてもいいから、日本人に使ってもらいたい」という人は少なくありません。2年、3年というアメリカ駐在期間に合わせて、長期の契約を結んでくれるので、空室リスクが抑えられるという安心感もあります。「郷に入っては郷に従え」といいますが、アメリカに駐在するような日本人の場合、家賃の値上げに対して強硬に反対する人は少ないようです。