今回は、米国のエネルギー供給事業者「PG&E社」の動向を探ります。※本連載では、野村総合研究所の著書『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、エネルギーシステムの変革に挑む、欧米大手電力事業者の動向を紹介します。

サンフランシスコに拠点を置く、電力・ガス会社

カリフォルニア州もニューヨーク州と同様、再生可能エネルギーの導入に積極的な地域であり、世界で最もエネルギーシステムの分散化が進展している地域のひとつといえる。一方で、非小売自由化州であり、州内のユーティリティが規制当局の規制を受けていることが同州の特徴である。

 

ここでは、カリフォルニア州でエネルギー供給事業を展開する事業者として、PG&E社の取り組みを紹介する。また、州内のベンチャー企業への出資・買収を進める大手エネルギー供給事業者の例として、Constellation社、Enel社、そしてEngie社を取り上げる。

 

<PG&E社の例>

 

PG&E社は、サンフランシスコに拠点を置く、電力・ガス会社である。カリフォルニア州の北部から中部までを管轄しており、1600万人に対してガス・電力の供給を行っている。カリフォルニア州の中部から南部までを管轄しているSouthern California Edison社(SCE社)、州南部の都市サンディエゴを中心に管轄するSan Diego Gas & Electric社(SDG&E社)とともに、「IOU」と呼ばれている。

 

[図表1]PG&E社グループの概要(2016年)

出所)PG&E社公開情報などをもとに野村総合研究所作成
出所)PG&E社公開情報などをもとに野村総合研究所作成

 

前述のとおり、カリフォルニア州は、脱炭素化に向けた取り組みで世界をリードしている一方で、2000年の大停電を契機として自由化に向けた動きは停止している。非自由化州であるだけに、PG&E社を含むIOUは、州の規制機関であるCPUCから各種の規制を受けている。

 

例えば、蓄電システムの導入に関する規制AB2514が一例である。再生可能エネルギーの導入拡大を背景に、系統の安定運用のためにより柔軟性の高いリソースの導入が求められるようになり、それを受けてCPUCが2020年までにIOU合計で約1.3GWの蓄電システムの導入を義務付けた。

 

PG&E社は、AB2514の施行を受けて、各種蓄電システムのプロジェクトを進めている。2017年2月には、Tesla社の系統用蓄電システム「Power pack」を同社として初めて導入した。サクラメント北部に位置するブラウンズ・バレーに合計0.5MW(2MWh)導入し、電力系統の需給調整に活用するとしている。

 

Tesla社のPower packは拡張性があるため、今後の電力需要の増加に合わせてユニットを増強することも可能とのことである。

 

また、PG&E社は、カリフォルニア州のベイエリアの家庭に対して、Tesla社の家庭用蓄電池であるPowerwallの導入も検討している。カリフォルニア州は、域内の電源の老朽化が進んでおり、かつ新規電力設備の建設が難しいことから、分散電源に対する期待が大きく、これが需要家に蓄電池を導入するひとつの要因になっていると考えられる。

 

AB2514を受けて、他のIOUも蓄電システムの導入を加速しており、SCE社は、2017年1月だけで合計160MWhもの蓄電システムをTesla社とGreensmith Energy社から導入している。SDG&E社も同様に、AES社から合計37.5MW(150MWh)の蓄電システムを導入している。

2015年のガス漏れ事故が蓄電システム導入を加速化!?

カリフォルニア州では、2015年10月にロサンゼルス郊外の天然ガス貯蔵施設でガス漏れ事故が発生し、これがIOUの蓄電システム導入を加速した遠因となったといわれる。これは、アライソ渓谷にある天然ガス貯蔵施設でメタンが流出した事故で、何千人もの近隣住民が避難を余儀なくされた、米国史上最大のガス漏れ事故である。

 

この事故により、天然ガス燃料が不足したため、結果として柔軟な電源リソースとして蓄電システムに対するニーズが高まり、導入スケジュールが前倒しされたといわれている。

 

AB2514施行を背景とした蓄電システムの導入に加えて、PG&E社は、EVの個別計測に関する実証も進めている。規制当局CPUCの指令を受けて、家庭部門および商業部門の顧客に対して、EVの電力需要を、その他の電力需要と分けて計測することの実証を2つのフェーズに分けて行っている。

 

2017年1月から実証の第2フェーズを開始しており、2018年4月末までの約15カ月間、実証を行う。実証開始後3カ月間程度で、500を上限として実証に参加する顧客を募集する。

 

実証に参加する顧客は登録後12カ月にわたって、EVへの充電量を個別に計測し、充電に要した料金については、PG&E社が設定するEV充電用の料金メニューが適用される。

 

EVへの充電量の計測にあたっては別途計測器の設置が必要になるが、これは、CPUCが事前に選定した「MDMA(Meter Data Management Agent)」と呼ばれる事業者が行う。

 

なお、MDMAは、ChargePoint社、eMotor Werks社、Kitu Systems社の3社であり、計測器の導入費用などは各社が個別に設定する。

 

[図表2]PG&E社の実証における計測方法

出所)PG&E社公開情報などをもとに野村総合研究所作成
出所)PG&E社公開情報などをもとに野村総合研究所作成

 

規制当局CPUCやPG&E社は、この実証を通じて顧客の選択肢を拡大するとともに、EVユーザーの燃料費を抑えることを目的としている。

 

日本を含め多くの国では、計量法で定められていないメーターのデータをもとにした系統運用や顧客に対する料金請求などは行えないが、カリフォルニア州では、こうした実証を通じて、EVをはじめとする分散電源が拡大した世界における計測のあり方についても模索しているといえるだろう。

 

ここまで見てきたとおり、PG&E社は、蓄電システムやEVをはじめとして分散電源に関する取り組みを進めているが、非自由化州とあってCPUCが定める制度や規制の影響を色濃く反映したものとなっている。

 

反対に、PG&E社らIOUの事業展開上の自由度が狭いこともあって、エネルギー以外のサービス提供も含めた顧客サービスのワンストップ化の動きは限定的といえる。

この連載は、書籍『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(㈱エネルギーフォーラム)からの転載です。

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「インフラ民主化時代」を制するのは誰か? 日本を代表するシンクタンクが業界の動向を大胆展望。

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