人は「心当たり」があると、ネガティブ情報に反応する
ウソを見抜く強力な質問法として「可能性質問」という質問法があります。これは「犯人であれば、あり得る可能性」について突っついて聞くというものです。
例えば、ある会社の更衣室にある従業員用のロッカーから現金が盗まれたとします。その時間帯に更衣室を使用した社員は5人です。順番に話を聞いたところ、Bに複数のウソのサインが見られました。そこでBを再度呼び出して聞いてみることにしました。ここで使えるのが可能性質問です。
「あなたがロッカーから現金を盗んだのを、見た人がいる可能性はありますか?」と聞いてみます。
もし彼が犯人であった場合、誰かに目撃された可能性があります。彼は「誰かに見られたのではないか?」と勝手に想像をはじめます。そして仮に見られていた場合、何と答えてこの場を切り抜けようか考えはじめます。つまり、そこにウソのサインが出やすくなります。
犯人でない場合は、目撃された可能性はまったくないので「そんな可能性はありません。だってやっていないですから」と考える間もなく直ちにそう答えます。
人間はこのようなネガティブな情報を投げられると、心あたりのある人だけがそれに反応して勝手に悪い方向に考える傾向があります。
やましいことがなければ「何のこと?」で終わるが・・・
例えば、朝出かけるときにいつも見送りもしない奥さん(旦那さん)が玄関先まできて、「今晩、ちょっと大事な話があるから・・・」と神妙な顔つきで言われたとします。あなたならどう考えますか? 何もやましいことがなければ「何のこっちゃ」で終わります。ところが何かやましいことがある人は、「何の話だろう? 浮気がばれたかな? いや、へそくりかな? まさか離婚したいとか?」などと、勝手に悪い方向に考えますよね。
これは奥さんの投げたウイルスに感染したためです。人間は悪い情報を得ると勝手に最悪のことを考えて、その対処方法を事前に考えておこうとするのです。
ですから、「あなたがロッカーから現金を盗んだのを見た人がいる可能性はありますか?」と聞かれると、「目撃者がいたのかな? もし、いた場合には何て答えようか」と考えはじめます。
「その時間に更衣室は使ってない」と答えるつもりだったのが、急遽作戦を変更して「あ、使ったことは使ったけど」と答える可能性があります。
つまり、たったひとつの質問でそこまで引き出すことができるのです。
質問の前に、効果を高めるための「前ふり」を入れる
可能性質問のどこがいいのか。実はこれって、疑っていないのです。
相手の心に聞いているだけで、疑っていませんよね。「・・・の可能性はありますか?」と尋ねているだけですから。つまり可能性がある人だけが反応するのです。
また可能性質問をもっと効果的に使う方法があります。質問の前に効果を高めるための「前ふり」を入れるのです。
例えばこんな感じです。
「うちの会社では、こんな泥棒事件は絶対になくしたいと思っています。社員もパートも不安を感じているし、泥棒のいる会社なんて信用問題にかかわります。だから今回は徹底的に調べました。全社員から話を聞きました。ぶっちゃけいろいろな情報が集まってきました。ところで、あなたがロッカーから現金を盗むのを見た人がいる可能性はありますか?」。
犯人は「そこまで言うということは、目撃者がいたのかな?」と思いはじめます。
つまり「前ふり」を入れることで、信ぴょう性を高める効果があるのです。
私の経験から言うと、犯人と取調官との信頼関係が強くできていて犯人が素直な人間であれば、「そこまで言うということは目撃者がいたんだな・・・」と勝手に判断をして事実を認める傾向が強いです。
可能性質問は犯人であれば、あり得る可能性について聞くわけですから、必ず反応が表れます。
ちなみにこの質問法は強力なウソの見抜き方なので、本当にウソを見抜きたいときだけ使ってください。世の中には見抜かない方が幸せというウソもありますからね。
森 透匡
刑事塾 塾長
経営者の「人の悩み」解決コンサルタント(人事コンサルタント)
株式会社クリアウッド 代表取締役