前回は、海外プロジェクトでは通用しない「日本独特のIT技術」を取り上げました。今回は、国によって異なる「瑕疵担保期間」の対処法についてを見ていきます。

国によっては、瑕疵担保期間が30日のところも

本連載の第5回目の連載でも法令の話が出てきましたが、そちらは業務要件としてERPに組み込むべき法令の話です。以下では、海外で働く場合に考慮すべき法令や慣習について述べていきます。

 

日本のシステム開発は請負契約で行われることが多く、この場合、民法上では瑕疵担保期間は1年以内で、しかも無過失責任(請負人に非がなくても修正責任が発生する)です。ただし契約書が優先しますので、契約によっては瑕疵担保期間が半年で、無過失ではなく過失責任になることもあります。

 

とはいうものの、通常、検収後1年は瑕疵担保責任がある、規模の小さなシステム開発なら半年ということもあるというのが常識的な線でしょう。

 

ところが、ブラジルではこの「常識」が通用しませんでした。かなりの規模のカスタマイズを現地のERPベンダーにお願いしたのですが、保証期間は30日という契約書類が送られてきて、サインを求められました。

 

それではさすがに引き渡し責任を負えないと、ベンダーとハードな交渉をしたのですが、結局15日の延長が限界でした。インドも同様で、通常1カ月だと言われます。一方、瑕疵担保期間が長い国や地域もあります。中国がそうで、通常2年です。

期間については契約書や作業範囲記述書に明記を

重要なことは、短い瑕疵担保期間が慣例の国や地域ではどのように対応したらいいかです。ポイントは2つあります。

 

第一のポイントは、契約書における明確化です。これは日本でも瑕疵担保責任について契約書に明記することが普通ですので、それと同じことです。

 

なお、日本ではあまり普及していませんが、海外では契約書ではなく、SOW(作業範囲記述書)に明記することが習慣の国や地域も多いので、その場合はSOWに明記しましょう。ただしSOWには「努力目標」として記載されることがよくありますので、そのような表現になっていないか注意が必要です。

 

とはいえ、ブラジルのように交渉してもせいぜい1カ月半という国もあります。他の国や地域でも、1年という日本の慣習はなかなか受け入れてもらえません。したがって、瑕疵担保期間が短いことを前提とした品質マネジメントを考えることが第二のポイントになります。

 

この場合の方策としては、大きく2つあります。

 

1つは、受入テストを国内プロジェクト以上に十分に行うことです。発注側のユーザー企業にしっかりテストできる体制と期間を用意してもらうことはもちろん、テストケースについてもできるだけ漏れなく考えておく必要があります。

 

もう1つは、初期不良分の改修費用を発注側で予算化しておくことです。無償で修正してもらうことができないのであれば、予算化しておくしかありません。

 

グローバル・プロジェクトというテーマから少し外れますが、初期不良分の改修費用の予算化は、日本国内でも有効な考え方です。というのは、国内プロジェクトでも(特にフェーズごとの分割発注をする場合には)、不良の原因工程が要件定義、設計、製造、テストのどこにあるかで瑕疵責任者が変わるため、瑕疵責任の話は面倒なことになりがちだからです。

 

予算化の考え方としては、安定稼動までの開発要員を厚めに確保しておくことなどが現実的です。

ITエンジニアの「海外進出」読本

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五嶋 仁,高木 右近日向

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