契約書は「複数人によるチェック体制」が必須
前回の連載では、瑕疵担保期間の例を挙げましたが、いずれにしても、まず導入先の国や地域の民法や労働法についてひととおりの知識を持つことは、グローバルPMOの基本要件です。
そのうえで、契約書を一人ではなく複数人でチェックする体制も必須です。国内プロジェクトでは営業や法務部任せにするケースもありますが、グローバル・プロジェクトではそれだけでは危険です。
もちろん、法務部や海外に強い弁護士を通すことも必要です。契約文面自体のチェックは、各国や地域の法律知識がからむのでPMOレベルでは難しいからです。法律の専門家も含めた集団チェック体制を作りましょう。
知的財産権については「係争地」等も重要に
以下、労働法や契約に関するポイントをいくつか示します。
国や地域の商習慣によって大きく違うことを考慮した契約をすることが重要です。
瑕疵担保責任については前述しました。システム開発で重要な事項では、その他に知的財産権の問題があります。日本でも契約書に明記されることが多い知的財産権の所有者ですが、海外では明記しておくことがさらに重要です。
知的財産権については係争地も重要になります。知的財産権について裁判となる場合、契約書に記載された係争地の裁判所で争うことになるため、仮に係争地が海外となっていると、裁判対応のための海外出張等が必要になるなど、予定しない費用が発生するリスクがあります。アメリカ大陸などの遠い国や地域だと無視できない負担となります。
関係国や地域の労働法の適用を明確にしておくことも必要です。特に残業時間に関しては重要です。ブラジルやインドネシアでは月の残業時間は厳守項目となります。一方、中国では比較的適用がゆるめです。韓国では日本と同様、納期を守るために残業してでも頑張る傾向があります。特にマネージャークラスは残業をあまり苦痛に感じないものです。
とはいうものの、基本的には残業なしで(しかも期間にバッファーを設けて)スケジュールするのがグローバル・プロジェクトでは基本です。
T&M(タイム・アンド・マテリアル)契約に関して2点。
スコープのはっきりしない仕事で要員をどうしても確保しておきたいときに、あらかじめ単価だけ決めておいて、あとは働いた時間に応じて支払う方式がT&M契約ですが、中国ではT&Mの概念がなく、このような使い方はできません。
また、海外ではT&M契約で成果物がないのがあたりまえだということを留意してください。というよりも言葉本来の意味からして、T&M契約で成果物があるということがおかしいのです。スコープがはっきりしているのであれば、請負契約にすべきであり、海外ではこのあたりまえのことがあたりまえに行われます。