「払戻請求」を起こされて困るケースも
前回の続きです。出資持分に絡む問題は、それだけではありません。出資持分が分散していた場合に、「払戻請求」を起こされて困るケースがあります。
たとえば、父が医療法人の持分15億円を持っていたとしましょう。これを3人の兄弟で5億円ずつ相続しました。長男が医師で後継者、二男三男は非医師だったとします。
出資持分は配当を出せないため、二男三男にしてみれば、保有していたところで特に旨味はありません。むしろ、法人で何か決め事をするたびに決議に参加しなければならず、面倒くさい思いをします。そこで、2人が「僕たちの出資持分を法人で買い取ってくれ」と言ったとしたら、どうでしょう。
医療法人は10億円で2人から持分を買い取らなければならなくなります。万一、法人に支払い能力があったとしても、一気に10億円を失えば経営が危うくなるでしょう。10億円がなければ融資を受けることになりますが、銀行が貸してくれるかどうかは分かりません。そもそもそんな大きな額の借金を抱えて、この先やっていけるかどうかも不安です。
「出資持分なし」の医療法人へ移行する手もあるが…
「出資持分あり」の旧医療法人から、今の「出資持分なし」の医療法人へと移行する手もありますが、これにも問題があります。
出資持分の権利そのものを放棄してしまえば、医療法人がいくら儲けても相続財産にはなりませんから、相続税が多額になる事態は回避できます。払戻請求を起こされる心配もありません。
しかし、出資持分を放棄することで相続税逃れをされてしまっては、国が税収減になって困ります。それで、持分なしに移行した法人は、「経済的利益を得た」として、みなし贈与税が課されることになっています。
つまり、持分ありのまま相続税を支払うか、持分なしに移行して贈与税を支払うかの違いにしかなりません。節税にならないどころか、場合によっては移行して贈与税で支払うほうが高くなってしまうケースもあります。