親族がいる限り、「相続」は避けて通れない
相続はどこの家庭にも起こります。サラリーマンであろうと、自営業者であろうと、企業経営者であろうと、フリーランスであろうと、親族がいる限り相続を避けて通ることはできません。巷に相続対策の本が溢れているのは、どこの家庭にとっても相続が大きな課題であるからです。
実際に、多くの家庭で相続トラブルが発生しています。家庭裁判所に持ち込まれる相続関係の相談件数は年々増加しており、近年は年間万件を超えています。遺産をめぐる争いや、相続税納税の問題、節税対策の失敗・・・いずれも一家を崩壊させる危険性をはらむ重大な問題です。
[図表]家庭裁判所における相続関係相談件数
こうしたトラブルを回避したり最小限に留めたりするために、多くの人が相続対策の本を読んだり、テレビや新聞で情報を仕入れたりして、自ら勉強し準備を始めています。
ところが、開業医の家庭ではどうでしょうか。非常に恐ろしいことに、何らかの具体的な準備や意味のある対策をしている開業医は、まだまだ少ないのが現状です。
開業医の相続に必ず付いてくる「医業承継」の問題
開業医の相続は、ほかの職業とは比べ物にならないほど複雑かつ難解になることが必至です。その複雑さ、難解さは、あらゆる職業・職種のなかで断トツといっても過言ではないでしょう。どうしてそんなに難しくなるかというと、「開業医」という職業が極めて特殊だからです。
開業医の相続では、医業承継の問題が必ずセットで付いてまわります。まず原則として、「医師免許を持つ者」が相手でないと医業承継はできないという縛りがあります。
また、旧医療法人(平成19年以前の出資持分ありの医療法人)の場合は、後継者に出資持分の譲渡をしなくてはなりません。この2つがネックとなって、さまざまな問題が持ち上がってくるのです。
ただでさえトラブルが起きやすい「相続」に輪を掛けて「医業承継」まで絡んでくるとなると、無事に相続を完了できるほうが不思議なくらいです。
地球上で最も高いエベレスト山に、手ぶらで単独で登るという人(しかも登山の素人)がいたら、「なんてバカなことを! 死にに行くようなものだから絶対にやめておけ」と誰もが言うでしょう。何の準備も対策もなしに相続を迎えようとしている開業医は、それくらい無謀なことをしようとしているのです。
次回からは、まず医師一家の破産、病院の消滅を招く要因について詳しく見ていきましょう。