前回は、経営力を落とさず、病院経営を承継するのに必要な準備期間について説明しました。今回は、開業医の相続対策での留意点を見ていきます。

家族全員が納得する「落としどころ」を探る

病院を永続させていくためには、相続そのものを円滑に完了することが不可欠です。病院の承継は相続と別個の問題ではなく、相続の一部だからです。ですから、目指すところは「円満な相続」です。円満な相続ができれば、おのずと円満な承継もできているでしょう。

 

円満な相続をするためには、家族みんなが納得し、笑顔になれる〝落としどころ〟を探る必要があります。一部の人間だけが得をするのではなく、また、誰かに我慢を強いるのでもいけません。実際の相続ではいろいろな人の感情や思惑が交錯しますから、なかなか一筋縄ではいかないでしょう。しかし、だからといって諦めてしまってはゴールなど見えてはこないのです。

 

たしかに開業医の相続には困難がいっぱいです。多くの人が躓き、失敗し、後悔している現実があります。けれども、そんななかでも無事に相続を乗り越え、家族全員が笑顔で仲良く暮らしている家族も存在します。

 

彼らと失敗した家族との違いは何かというと、事前の対策をしっかりと丁寧にやっていたかどうかです。信頼できるパートナーと出会い、十分に話し合って、自分たち家族にとってのベストな対策を選び取ってきた人たちが、最終的には幸せになっています。

十分な時間をかければ「一番ふさわしい道」が選択可能

家族が幸せに暮らせて、病院も安定して継続でき、被相続人も思い残すことなく次の世界に旅立てる――そんな三方よしのハッピーな相続を、あなたにもかなえていただきたいと思います。

 

そのためには焦らないことが一番です。

 

本書『相続破産を防ぐ医師一家の生前対策』の最初に、開業医の相続をエベレスト登山に喩えました。登山では、じっくり時間をかければ、いくつもあるルートのなかからより安全でベストなルートを選んで登っていけます。途中で少々道を間違えても、立ち止まって今いる場所を確認し、方向修正をしたり、元の場所まで戻ってやり直しをしたりすることができます。景色や空気のおいしさを味わう余裕すら生まれるかもしれません。

 

相続でも同じです。十分な時間をかければ、自分たち家族にとって一番ふさわしい道を選んでいけます。揉め事が起こりそうなときも、腰を落ち着けて話し合うことで、関係を壊さずに妥協点を探っていけるでしょう。家族と集まって「ああでもない、こうでもない」「自分はこう思うけど、あなたはどう?」などと本音で語り合っているうちに、家族間での愛情は深まり、絆を強く結んでいけるに違いありません。

 

どうか相続を「厄介ごと」と捉えずに、家族としてさらに成長していける「チャンス」とし、力強く前に一歩を踏み出してください。きっとエベレストの頂上から見る世界は素晴らしい感動を与えてくれるはずです。すべてを終えて自分たちが歩いてきた道を振り返ったときに、「相続準備をやって良かった」と思える日がきっと来ます。

本連載は、2016年5月27日刊行の書籍『相続破産を防ぐ医師一家の生前対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続破産を防ぐ 医師一家の生前対策

相続破産を防ぐ 医師一家の生前対策

井元 章二

幻冬舎メディアコンサルティング

医師一家の相続は、破産・病院消滅の危険と隣り合わせ 今すぐ準備を始めないと手遅れになる! 換金できない出資持分にかかる莫大な相続税 個人所有と医療法人所有が入り乱れる複雑な資産構成 医師の子と非医師の子への遺…

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