今回は、「売買の基礎練習」の重要性について語ります。※本連載では、投資顧問会社「林投資研究所」代表取締役 林知之氏の著書『億トレⅢ プロ投資家のアタマの中』(マイルストーンズ)から一部を抜粋し、相場師として大きな成功を収めた林輝太郎氏が歩んだ歴史と、売買の秘訣などについて、インタビュー形式で紹介していきます。

基礎練習によって”損切り”ができるようになる

(前回からの続きです)

 

─唯一うまくいったのが相場・・・とはいえ、赤いダイヤの時は買い方で参加して負けたんだっだね。その大損のあと、どうしたの?

 

工事は中途半端だったが、生活できる状態の自宅が残った。借地だった土地も買い取っていた。でも現金がない。だから、ふだんの生活に必要なカネもない状態だったわけだ。そんな時、オレに相場を教えてくれた実践家たちのひとり、山本真一さんという人が、なんと売買の資金を貸してくれたんだ。

 

しかし、2つの条件を与えられた。1つめは、「生活費などに使わず、相場の資金としてのみ利用する」ということ。2つめは、「基礎的な売買の練習をしろ」という指導だった。

 

お金を貸してくれたうえに基礎の練習をするように忠告されたのだから、ストレートに「このヘタクソ!」と言われるよりも、ずっと強烈に響いたよ。赤いダイヤの直後だから、まだ隆昌産業のセールスマンとして働いていたころだ。

 

オレは、言われた通り、小豆で単純な売買を繰り返した。「1枚、1枚」、あるいは「1枚、2枚」という2分割で仕掛け、それを一括で手仕舞いする練習だ。

 

─「うねり取り」という枠組みの中での練習だね?

 

そうだな。小豆は穀物だから毎年、新物が収穫される。季節によって需要も変化する。つまり、ある程度の季節(期節)的な変動があるわけだ。それを基にした売買だから、いま流行の超短期売買で回数をこなすようなものではない。でも、この練習売買によって、いくら頭の中で考えてもわからないこと、売買の軸になる大切なことを学んだな。

 

─それはなに?

 

説明するのが難しいんだ・・・「やればわかる」「やらないとわからない」みたいな答えになっちゃう。いくらなんでも乱暴だと言われてしまうが、実際にそういう”体験した者だけがわかる”感覚だな。おまえなら、わかるだろうが・・・。

 

例えて言うなら、食べ物の味かな。パイナップルを食べて「甘い」「おいしい」と感じるが、その甘さを言葉にすることは困難だし、1回や2回食べただけでパイナップルのおいしさを本当に理解するかというと疑問だろ?実際は、イヤになるくらい食べないと、本当の味なんてわからないはずだ。

 

「大切な学び」について、強いて言えば、単純な基礎練習によって”損切りができるようになる”ということが挙げられるな。オレは、基礎売買を1年半ほど繰り返したところで、「基礎ができた」と感じた。

 

予想なんて当たったり外れたりだから、予想が外れた、あるいは手が合わないときは建てた玉を切って出直すしかないわけだ。だから、損切りは重要だ。オレは、「基礎ができた」と同時に「損切りを淡々と実行できるようになった」と感じたね。

 

ところがその後、調子に乗って売買数量を増やしたら、できると思っていた損切りができずに痛い目に遭った。「淡々とできる」なんて感じる、そんな自分への褒め言葉が頭に浮かぶうちは、まだ淡々としていない、できていない状態なんだろうな。

 

─読者から、「林輝太郎先生の本には”損切り”という言葉があまり出てこない」という感想を聞いたことがあるけど・・・。

 

損切りは大切な観点だから、ふつうに書いていると思うがな。もし、そう感じる人がいるのなら、流行のデイトレードの本が影響しているんじゃないか?

 

多くの人の興味に合わせて書かれた本は、売買を「仕掛け」「手仕舞い」と短絡的に片づけてしまっているわけだ。「株の買い方」だけを説いたものよりはマシだが、売買の数量や分割売買といった大切な視点が抜け落ちている本が多い、そう感じるね。

 

加えて、狙いが短期になるほど「当てよう」という方向に傾くから、数量とか数量の調整に目を向ける姿勢がますます薄くなってしまう。

 

オレにとって売買とは、まずは試し玉を入れ、動きを見ながら本玉を建てていくというもの。だから、極端に言ってしまえば、損切りは試し玉の段階で行うことで、本玉を建て始めたあとは損切りをする必要がないんだ。

 

それに、試し玉から本玉という進め方をするだけで、「ダメだったら撤退」という考え方が黙っていても盛り込まれる。

 

こういったことから、短期の売買について説明されたものや、数量という要素を無視した説明の中で、「私の説明はとても実践的ですよ」と言わんばかりに、必要以上に”損切り”が強調されるんじゃないだろうか。

「1枚、2枚でもいいから、自分で売買しろ」

─基礎の練習というのは地味だから、多くの人が嫌がるよね。

 

オレは自分の経験から、単純な基礎練習をしなさいと多くの人にアドバイスしている。でも、大部分の人は苦行のように感じるらしく、「どれくらいの期間ですか?」と切り返してくるよ。

 

経験が少ない、あるいは技術がない段階で大きな資金を動かすほうが苦行ではないかと思うが、オレ自身もそうだったように、すぐに大きな売買をしたくなるものだ。でもガマンして、最低でも2年間は基礎の売買を繰り返すべきだ。その基礎の売買によって土台が固まるから、経験を積みながら技術を身につけていく器ができる。

 

─商品会社の営業マン時代の練習売買は、いわゆる”手張り”だよね?

 

そうだけど、その当時は現在のように、従業員自身の売買を制限するルールなんてなかったから、法的な問題もなければ、コソコソやらなければいけないといったマイナス面もなかったんだ。

 

でも今は、家族も親類も売買したらダメなんて極端な禁止ルールを設けている証券会社や商品会社があって、事故を防ぐために”とにかく売買させない”という方向に大きく傾いているな。

 

そういったことの是非はともかくとして、当時、少なくとも規模の小さい店(証券会社、商品会社)では社長が、「1枚、2枚でもいいから、自分で売買しろ」と手張りを奨励していた。自分が知らないものを客に勧めるのはおかしい、という論理だよ。

 

一時期の証券会社では「手張り」という言葉を、「お客さんの資金を勝手に使う自己の売買」という意味で使っていたみたいだな。

 

カネの魔力と人を管理することの難しさをあらためて考えさせられる部分だが、オレにとって手張りという言葉は、業者としての正しい姿勢を基礎とした、とても純粋な個人の売買だよ。それぞれの判断で勝手にやればいいと思うんだが、そうもいかないようだなあ。

 

ヤマハ通商のころ、それから現在の林投資研究所を設立したあとは、自分の立場を考えて売買を控えていた時期があった。それは、自分自身のバランスを考えた対応だったわけだが、その時期でも基礎売買の練習を繰り返していたよ。

 

相場の資金を失ったあと、借りたカネで基礎売買の練習を繰り返した輝太郎は、うねり取りを中心に相場の実践を続けながらも、さまざまな観点で売買全般を研究し、実践を重ねてきた。

 

インタビューの最後では、その研究・実践の経緯とともに、相場とどう向き合うべきかという哲学を聞いた。

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

林 知之

マイルストーンズ

コントロール不能の相場を相手に、投資のプロたちは「何を見て、何を学んだ」のか、「何を考え、どう行動した」のか、そして「何にこだわり、何を捨てた」のか―― 6年に及ぶ長期取材を経て、今だからこそ伝えたいマーケット…

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