今回は、「サヤ取り」について語ります。※本連載では、投資顧問会社「林投資研究所」代表取締役 林知之氏の著書『億トレⅢ プロ投資家のアタマの中』(マイルストーンズ)から一部を抜粋し、相場師として大きな成功を収めた林輝太郎氏が歩んだ歴史と、売買の秘訣などについて、インタビュー形式で紹介していきます。

サヤ取りは「相場」ではなく「利殖」である

前回からの続きです)

 

─売買手法の変遷では、「うねり取り」が中心だったようだけど、「サヤ取り」も積極的に研究してきたよね?

 

昔も今も、サヤ取りを実践する人は少数派だ。手堅いけれど面白みがないということで興味をもたない、あるいは少しやってみて現実に儲かっても続けない、そんな人ばかりだな。

 

オレがいろいろなことを教わって世話になった山本真一さんもサヤ取り屋で、しっかりと利益を上げて財産を持っていたが、さっき言ったように、小豆が華やかに動いている中で「ゴミ拾い」などと揶揄(やゆ)されていたほどだ。

 

小豆の片張りをやる人が限月間サヤを見ていたり、あるいは小豆と手亡(白インゲン豆)のサヤを見ていたりしたが、サヤ取りそのものを実践するのは、ごく限られた人たちだけだったね。

 

でも商品相場において、サヤというのはとても重要な要素だ。サヤを抜きに商品先物は語れない。だからオレは、「サヤこそ相場」という考えを大切にしている。

 

オレが山本さんに教わってサヤ取りを勉強した当時、サヤ取りに関する教科書なんてなかった。でもオレは、「片張りのためのサヤの知識」ではなく、サヤ取りそのものを真剣に勉強したんだ。

 

数少ない文献を頼りにしながら、身近にいた実践家にも教わったよ。その過程で、例えばロスチャイルドがサヤ取りで財を築いたことを知ったし、市場に対する視野がずいぶんと広がった。そもそも教わるまで、サヤ取りという手法を知らなかったんだから。

 

だけど、サヤ取りは”相場”ではないんだ。

 

─「サヤこそ相場」だけど「サヤ取りは相場ではない」とは?

 

別に、禅問答じゃあない。サヤ取りは手法のひとつに違いないが、「相場」ではなく「利殖」だという意味だ。

 

商品先物でうねり取りを行うのに、どの限月に玉を建てるのが最も有利か─納会までの期間と自分の売買手法、あるいは狙いなどを基準に限月を選ぶことになるが、その際、限月ごとの価格差も重要だ。サヤのつき方、あるいはサヤの変動といった要素を、片張りにおいても考えるわけだ。

 

それに、サヤという概念が生きるのは、限月制の先物市場に限らない。株式市場にだって、株価指数先物と現物のパッケージで行う”裁定取引”と呼ばれるサヤ取りがある。個人が行う個別銘柄の売買でも、例えば同じ業種の中で一部の銘柄が先行して上がれば、ほかの銘柄が「出遅れている」といった発想が生まれる。これこそ、サヤという観点での観察だ。あるいは、同業種でも異業種でも「割高」「割安」という比較が行われる。これも、「サヤを観察すること」と言えるだろ?

サヤを考えることで「売り」の大切さもわかる

─サヤ取りという手堅い利殖に興味を示す人が少ない理由はなんだろう?

 

カネを動かすことに刺激を求めるんだろうな。多くの人は、「リスクを減らす」とか「預金の金利を上回ればいい」などと口では言うものの、刺激がないとやめてしまう。ごくふつうの人が陥る落とし穴なんだろうが、証券会社の営業姿勢とか、雑誌に載っている無責任な記事のせいもあるよ。

 

サヤ取りのような手堅い方法で、初心者であるにもかかわらず利益が出ているのに、「つまらない」と言ってスリルのある危ない売買に移行するんだ。

 

その前に、そもそもサヤ取りという考え方にたどり着くのが困難だ。たどり着いたとしても、誤ったサヤ取りを行っているケースが多いと思うよ。最近は個別銘柄の売買にETFやCFDをからめる手法が紹介されたりして、いろいろなことをやる人が増えているようだ。

 

でも、手数(てかず)が増えるだけだし、ヘッジとかサヤ取りといってヘンな組み合わせをつくると、単に片張りの思惑を2つ持っているだけになってしまう恐れもある。

 

─考え方が大切だと?

 

そういうことだ。良い意味で幅を広げるつもりでも、複数のやり方を同時に行うと、全部がダメになる。結果なんて出ない。でも、単純な片張りにおいてもサヤという概念は大切だし、サヤ取りの経験があれば、ほかの売買で役に立つことも多いだろう。

 

オレはいつも投資家に「手を広げると失敗する」と言っているが、視野は広いほうがいいに決まっている。

 

多くの人の発想が「買うこと」に偏っているのも、視野が狭い事例のひとつだな。モノを持たない先物取引でも買いから入る人が多いんだから、偏りというよりも錯覚かな。

 

サヤを考えることで「売り」の大切さもわかるから、買い偏重も減るし、カラ売りという発想も自然なものになる。現実に行うのが買いだけでもいい、それはそれで選択肢のひとつだが、例えば、玉を持ちっぱなしにしないで「休み」を入れるという実践的な発想も、視野を広げることで当たり前のことになるわけだ。

 

オレが『売りのテクニック』というタイトルで本とビデオを作ったのも、一般の投資家があまりにも「売り」を考えていないことが問題だと感じたからだよ。

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

林 知之

マイルストーンズ

コントロール不能の相場を相手に、投資のプロたちは「何を見て、何を学んだ」のか、「何を考え、どう行動した」のか、そして「何にこだわり、何を捨てた」のか―― 6年に及ぶ長期取材を経て、今だからこそ伝えたいマーケット…

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