今回は、株式投資において、「正しい自己流」をつくる方法について見ていきます。※本連載では、投資顧問会社「林投資研究所」代表取締役 林知之氏の著書『億トレⅢ プロ投資家のアタマの中』(マイルストーンズ)から一部を抜粋し、相場師として大きな成功を収めた林輝太郎氏が歩んだ歴史と、売買の秘訣などについて、インタビュー形式で紹介していきます。

相場の予測を科学で当てることはできない

前回からの続きです)

 

─中源線建玉法の特徴を考えるとき、いろいろな観点はあるけど、ひとつが「予測しない」ということだと思うんだ。

 

そうだな。過去の動きを基に割り出した「当たる」予測法に沿って玉を建てるわけだが、予測法そのもので利益を上げようとはしていない。不測の動きに対応することで、何とか利益を出していこうという現実的な考え方をしているよな。それを具現化したのが、分割売買による仕掛けと手仕舞いだ。

 

中源線を研究する過程で出くわした「インチキくさいもの」は、予測法だけでどうにかしようとして”どうにもならない”状態で終わってしまっているようなシロモノばかりだ。実践的な立場で考えれば、「手法」として成り立っていないことが、すぐにはっきりする。

 

「値動きにどう対処するのか」に注目する相場技術論では、過去の動きから今後の動きを考える。対処のための基準が必要だから、真剣に予測を立てる。その一方で、「予測は当たらない」と考える。予測に固執したら、外れたときに大損してしまうからだ。

 

相場は科学ではないんだ。少なくとも、科学で予測を当てることはできないってことだよ。

 

予測の理論だけで進もうとする人もいるね。

 

評論家がそうだ。オレたち実践家は、人間の能力による「上手下手」を大切にしているが、評論家はそれを認めない。「分析と予測が正確か否か」だけなんだ。

 

テクニカル分析の三原則があるだろ。そのひとつは、「歴史は繰り返す」というヤツだ。

 

だが、あくまでも”ある程度”の範囲に限定されたことで、値動きは1回ごとに異なる。それに、自分も含めて、参加している人間が値段を動かしていくのだから、科学で対応できるって発想が、そもそもおかしいんだ。理論もいいが、能力を伸ばすことにもっと目を向けないといけないな。

練習を重ねた上にこそ正しい自己流が確立する

─能力という観点から、基礎の売買を練習しろという教えが重要ってことかな?

 

知識と想像だけで、いきなり大きな資金を動かす人がたくさんいる。経験がないことについて、想像だけで上手にこなすことなんて、できるはずがない。ムチャだよ。だから2年間は、ひたすら基礎的な売買を練習するべきなんだ。「2年はつらい」と感じる人が多いんだが、長く相場を行ううえでは”たったの2年”だよ。常識で考えれば納得できると思うんだけどねえ・・・。

 

車の運転を覚えるのに教習所に通うが、その目的は免許証をもらうことではなく「技能や心構えを学ぶ」ことだ。相場は、誰でもすぐに始めることができるが、その手軽さを勘違いしてはいけないってことだ。

 

─プロップハウスで売買する高橋良彰さん(※)は「独りで売買する個人投資家はすごい」「継続するには精神力が必要」ということで、チームプレーの効果が不可欠だと言っていたね。

 

インタビュー集の第1作『億を稼ぐトレーダーたち』に掲載したひとり。プロップハウス(自己資金で売買する組織)の社長兼プレーヤーとして活躍し、チームの累計利益が100億円を超えた。

 

プロップハウスについては、よくわからない。オレは独りでやってきたから、チームプレーが苦手、というか、チームプレーの感覚がないんだ。

 

でも、投資家である以上、独りで立ち向かわなければいけない。そういう気概をもった人間が集まらないと、チームプレーも成り立たないんじゃないか?

 

相場では、精神的な面が非常に大きい。独りだとやっていられなくなる。でも、それを乗り越えなきゃダメなんだ! 単純な売買を反復練習する、最低でも2年間は続ける、そして一種の悟りを得るしかないんじゃないかな。

 

─昔のような根性論が後退して、例えば自分自身の努力に加えて周囲の人の力を上手に活用するというのが現代風だよね。自分の軸が揺らいだときの助けってこと。

 

揺るがないレベルにまで高めておけばいいし、すべて自分の中で完結させればいいことだとオレは考えるね。古くさいと言われるかもしれないが、相場というのはそういうものだ。助け合いは役に立つが、最初から他人に依存する人は伸びないよ。

 

─なるほど。でも学ぶときの効率は高いほうがいいんじゃない? 『株式成功の基礎』(林輝太郎著、同友館)のオビには、「血のにじむような努力ではなく、基礎売買を身につければ誰にでもできる」と書いてある。

 

そう、苦行である必要など全くない。何十年も相場をやってきて確信しているのは、正しい筋道の単純な努力が大切だということだ。

 

ただ、その覚悟がなさすぎる人が多いと感じるんだ。長年、多くの人に接してきたが、オレが真剣に教えたことをきちんと受け止めてくれた人は、ごく少数だった。

 

─例えば「手を広げるな」と教えても、「なるほど」と言うだけで実行しないとか?

 

そう。つい興味本位で、いろいろなことに同時に手を出してしまう人が多い。ダメになる典型だ。

 

─どういう範囲なら許されると考えてるの?

 

例えば、株と商品を同時にやるのはいいが、「両方ともうねり取り」というように絞り込んでおくことが条件だな。「商品はサヤ取りだけど株はうねり取り」というのはダメだと思う。いろいろなことを自分でも経験したが、あらためてそう思うね。

 

でも単純化というのは、意外と実行しにくいものなんだ。オレ自身も、納得して実行できるようになるまでには時間がかかった。

 

とにかく、基礎の練習が不可欠だ。価格の波に乗る、降りる──これを常に自分だけの判断で行うのが相場だ。正しい筋道の単純な練習で相場の経験を積み、正しい自己流を確立するんだよ。

 

相場に正解などないんだから、自分以外のなにかに売買の動機を求めてはいけない。

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

林 知之

マイルストーンズ

コントロール不能の相場を相手に、投資のプロたちは「何を見て、何を学んだ」のか、「何を考え、どう行動した」のか、そして「何にこだわり、何を捨てた」のか―― 6年に及ぶ長期取材を経て、今だからこそ伝えたいマーケット…

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