今回は、相場師・林輝太郎氏が株取引の世界へ進むまでの経緯を語ります。※本連載では、投資顧問会社「林投資研究所」代表取締役 林知之氏の著書『億トレⅢ プロ投資家のアタマの中』(マイルストーンズ)から一部を抜粋し、相場師として大きな成功を収めた林輝太郎氏が歩んだ歴史と、売買の秘訣などについて、インタビュー形式で紹介していきます。

「お兄さん、株買いなよ。まだ上がると思うよ」

前回からの続きです)

 

─食うや食わずの状態から余裕が生まれ、現金の蓄えも少しできた。そこで相場の世界に入るわけだよね?

 

進駐軍に勤めたあとは、「エー・ポンビー商会」という洋服生地の卸売りをする会社で働いた。

 

ユダヤ人が経営していた会社で、ちょうどイスラエル建国の時だったから、支部が団結して「潜水艦を1隻、国のために寄付するんだ」なんて言いながら、真剣にビジネスに取り組む人たちがいたんだよ。場所は、銀座の資生堂の斜め向かいだった。

 

その少し先に、「天國(てんくに)」って天ぷら屋があった。これは今でもあるな。そのさらに先に「新橋」という橋があり、その橋を渡ったところに「日東証券」があった。手元の資金を株で殖やそうと考え、その日東証券に行ったわけだ。

 

さすがに、何も知らずにいきなり株を買うほどの勢いはなかったから、何度か店に足を運んでいると、ある日、日東証券の人に声をかけられたんだ。

 

「お兄さん、株買いなよ。まだ上がると思うよ」と。

 

オレは「どれがいいの?」なんて聞いて。まあ、今では想像できないくらい、のんびりとした会話だったな。

 

1991年まで指定銘柄制度というのがあって、平和不動産や旭化成など〝代表格〟とされる一部の銘柄で、信用取引の条件が有利になるというのがあったよな。その前身となる制度として当時は、特定銘柄制度というのがあったんだ。日東証券の人はそれらの銘柄を挙げて、「どれでもいいよ。大丈夫だと思うよ」なんて言うんだ。そんなやりとりをしながら結局、平和不動産を10株、92円50銭で買ったのが最初の取引だった。

 

─その後、継続して売買するようになったの?

 

その10株は思惑通りに値上がりして、利食いになった。その後も三菱重工などいろいろな銘柄を手がけて取ったり取られたり・・・でも、トータルでは利益になっていたな。これが昭和23年(1948年)、63年前のことだ。

 

スターリン暴落の時は、たいへんだったなあ。昭和28年(1953年)に旧ソ連の最高指導者、ヨセフ・スターリンが死んだことで、戦後復興や朝鮮戦争の特需を背景に上がっていた株価が大暴落したんだ。朝鮮戦争の終結が早まるという観測が悪材料で、主力株や軍需関連の銘柄に売りが殺到したわけだ。

織物を売りつつ、証券会社の下請けをしていると・・・

─売買の方法などは、どうやって学んだの?

 

本を読んだ。きちんとした本が、けっこうあったんだよ。現在とは出版業界の構造もちがうわけだけど、今よりも真面目な本が多かったという印象だなあ。

 

チャートが載っている新聞、今のチャートブックのようなものがあって、そこで値動きを見たり、手法の本を読みながら自分でチャートを描いたりしていたね。

 

─そのころは、まだ相場の業界にはいなかったの?

 

イスラエル建国で、働いていたエー・ポンビー商会はなくなった。国ができたから、引き払ってイスラエルに移ったんだよ。

 

おふくろの妹が京都の織り元(織物の製造業者)に嫁いでいたので、そこで作ったちりめん()を売って歩くのが本業だった。それと同時に、大同証券というところで営業の下請けをやった。「客外交」と呼ばれていたよ。今ならば違法行為なんだろうけど、その当時はモグリではない”まっとう”な立場だったんだ。

 

でも、そんなオレを見た人が、声をかけてくれたんだ。隆昌(りゅうしょう)産業という商品会社の社長だった小島さんが、「そんな中途半端なことをしていないで、うちで働かないか」と。それがきっかけで、商品会社で営業の仕事を始めたのが、昭和30年(1955年)だ。

 

ちりめん
高級呉服や風呂敷などに使われる、絹の織物。

 

(続)

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

億トレⅢ プロ投資家のアタマの中

林 知之

マイルストーンズ

コントロール不能の相場を相手に、投資のプロたちは「何を見て、何を学んだ」のか、「何を考え、どう行動した」のか、そして「何にこだわり、何を捨てた」のか―― 6年に及ぶ長期取材を経て、今だからこそ伝えたいマーケット…

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