会社の現状と課題をあぶり出すには「財務指標」を分析する手法が最も有効です。本連載では、中京大学経営学部教授・矢部謙介氏の著書、『武器としての会計思考力 会社の数字をどのように戦略に活用するか?』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、企業の財務指標分析のポイントを解説していきます。

比例縮尺図のメリットと弱点

前章まで(※書籍参照)で説明してきた財務諸表を比例縮尺図に置き換える方法は、一見とっつきにくい財務諸表を可視化(視覚化)するものなので、これを活用すれば、様々な情報が読み取りやすくなります。

 

しかし、比例縮尺図にも弱点があります。それは、複数年度の財務諸表を分析する場合 に、手間がかかりすぎることです。

 

例えば、 10年分の財務諸表を比例縮尺図で分析しようとすると、B/SとP/Lだけで
も20の、キャッシュ・フロー計算書まで含めると30もの比例縮尺図をつくらなければなりません。エクセルなどの表計算ソフトを使えば、作成の手間はある程度軽減されますが、それでもあまり現実的なやり方とは言えません。

 

そのようなときに有用なのが、様々な財務指標を使って分析を行なう手法です。

 

これは、財務諸表の様々な数値を使って、安全性、効率性、収益性、成長性などを表す 指標を計算し、その指標を用いてその会社の状況を把握しようとするものです。ここで計 算した指標は時系列に沿って表やグラフにまとめることができるので、時系列で遡って複 数年度の財務諸表を分析するときに大変便利です。

「財務指標→財務諸表→ 実際のビジネス」

ただし、財務指標を使って分析を行なうときに注意すべき点が2つあります。

 

1つ目の注意点は、指標を鵜呑みにしてしまい、肝心な財務諸表そのものに目が行かな くなってしまう危険性があることです。経営分析に慣れていないビジネスパーソンや大学 生のほとんどは、財務指標の計算結果を短絡的に解釈してしまい、その会社で実際に起こ っていることまで目が向きません。

 

しかし、第1章および第2章(※書籍参照)でも説明したように、財務諸表には実際のビジネスで起こっていることが現れています。したがって、財務諸表から計算された財務指標も、実際のビジネスと結びついているはずなのです。

 

ですから、読者の皆さんも、財務指標分析を行なうときには、「財務指標→財務諸表→ 実際のビジネス」というつながりを常に意識してください。

 

具体的には、財務指標を計算した後、その指標のもとの財務諸表がどのような姿になっ ているのかを想像しながら分析を進めてください。これを繰り返して慣れてくれば、財務 指標の計算結果から、その会社の比例縮尺図がどのような形になっているのかをイメージ できるようになるはずです。そうすれば、現実のビジネスがどうなっているのかも見えて きます。

 

もう1つの注意点は、財務指標の公式を丸暗記しようとしないことです。

 

財務指標の計算自体は、エクセルを使えば比較的簡単にできますから、公式自体を丸暗 記することには何の意味もありません。むしろ、なぜそのような式で財務指標を計算する のか、その理由を理解することが大切です。こうした理解は、1つ目の注意点で説明した ような、財務指標と財務諸表とのつながりを意識する手助けになります。

 

また、これから連載で取り上げていく財務指標には、非常によく似た形の指標がたくさ んあります。こうした似た形の指標同士をセットで見ていくと、財務指標の持つ意味がより理解しやすくなります。

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