「経営」「組織」について学ぶ機会がほとんどない医師
前回の続きです。大学では医学や医療技術ばかりを勉強してきました。もちろん経営学など学んでいません。大学で経営を学んだとしても、それがそのまま社会に通用するとは思いませんが、一般的には企業に就職するなどして働くうちに、仕事を通して社会や組織の仕組みなどを身に付けていきます。
その点、医師は特別です。医学部を卒業すると、研修医という世界が待ち受け、多くは大学に残ったり、他の大学に移ったりなどして、医療技術をひたすら磨きます。ここで人間関係を学ぶことはできますが、どうしてもクローズドの世界ですから、医療以外の経営や組織を学ぶ機会はほぼありません。
そういった意味で、医師は、一般的な「社会人」としては特殊な存在です。研究ばかりに没頭している高名な学者が電車の切符の買い方を知らなかった、という笑い話もありますが、医師はそれを笑えません。
研究肌の人なら医療を追求していけばいいかもしれませんが、開業とは、店を構えて営業するということです。商店街の青果店や食堂とまったく同じです。「あの先生は腕がいい」などと評判が高まり、患者さんが増えていけば繁盛するでしょう。
しかし、2番目の八日市場で最初に味わったように、まったく知られていない医療機関ならば、何らかの経営努力をして知名度を上げなければ存続することは難しいでしょう。開業した段階で「自分は医療経営者になったんだ」という自覚を持ち、職員と共に営業に勤しまなければならないのです。
ましてや医療法人としてまだまだ成長段階にあり、500名以上の人材を抱えた現在、それだけの数のスタッフやその家族の生活を守るためには、効率よくシステマティックな組織運営が不可欠で、それができなければ末永く存続することは不可能です。
「組織の安定」が職員のやり甲斐、患者の満足度に直結
私の現在の立場としては、優れた若い人材の持つ技術を生かすためにも、理事長として経営に力を注がなければなりません。
職員の生活を守るためにも、たくさんの患者さんに来てもらい、彼ら、彼女らの命を長期間にわたって守ることにより、患者さんも職員たちも幸せになれる組織運営が、私共の腕にかかっているのです。
そのために重要なことは組織を安定させることです。安定とはすなわち毎月きちんと利益を出せるようにすることにほかなりません。優れたスタッフたちに「ずっとここで働きたい」と思ってもらえる組織となれば、医療事業を継続でき、多くの患者さんたちに最適な治療を施すことができます。規模の大小は関係ありません。
組織の安定が職員たちのやり甲斐となり、患者さんに満足のいく治療を行うことで利益が生まれ、その利益は組織に返ってきます。このサイクルをきちんと整えることこそが医療経営なのだと思っています。
この話は次回に続きます。