株、債券、不動産等の「本来の価値」を推定するには?

本連載は外資系生命保険会社の運用担当、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

ファイナンスの世界でいう「公正価値」とは?

本連載ではまず、プライシング理論から説明します。プライシング理論は、投資しようとしている株や債券、あるいは事業や不動産などの「本来の価値」はどれくらいなのかを推定するための理論です。

 

例えば株式投資では、割安な株を買い、割高な株を売るというのが大原則です。けれども、そもそもどの株が割安で、どの株が割高なのかを判断できなければ、そのような投資を行うことができません。そして、割安・割高を判断するためには、株の持つ実力、つまり「本来の価値」を知る必要があります。本来の価値を推定できれば、本来の価値と比べて高い値段で取引されている株は割高、低い値段で取引されている株は割安と判断することができます。

 

プライシング理論は、このような「本来の価値」を推定するための理論です。「本来の価値」のことを、ファイナンスの世界では公正価値fair value)と呼びます。

 

このような考え方は、株式投資だけでなく、不動産投資や、企業のプロジェクトへの投資、M&A等々にも当てはめることができます。プロジェクトへの投資を例にとると、本来の価値が100億円のプロジェクトに120億円のコストがかかってしまったら、会社として採算が取れなくなってしまいます。また、本来の価値が100円の株を120円で買うのも、良い投資とは言えません。本来の価値を推定するということは、非常に重要なことなのです。

 

それでは、プライシング理論では、公正価値をどのように捉えるのでしょうか? そのことについて、まず見ていきましょう。世の中には、株・債券、不動産、プロジェクト、企業(M&A)など様々な投資対象がありますが、公正価値を求めるための基本的な考え方はどれも同じです。まずは基本的な考え方を理解し、次にそれぞれの個別の投資対象について、具体的にどう考えていけばいいかを見てみましょう。

投資対象は「お金の流れ」に置き換えて考える

基本的な考え方は、「投資対象をお金の流れ(キャッシュフロー)に置き換えて考える」というものです。いきなり株や債券だと抽象的でわかりづらいので、すこし唐突かもしれませんが、“牛”の価値について考えてみましょう。「牛の公正価値を推定しなさい」と言われたら、どうやって計算すればいいでしょうか? まず、ファイナンスの世界では、全ての価値をお金で測定します。牛の価値は、牛を飼うことで得られる収入をもとに測定することになります。

 

牛一頭のお乳を搾って売ることで、年間50万円を稼げるとします。寿命は乳を出し始めてから5年とします。また、(少し残酷ですが)最後は肉用牛として10万円で売却されるとしましょう。このように考えることで、牛をお金の系列に置き換えることができます。最初の4年間は毎年50万円ずつ収入があり、5年目は60万円(牛乳の売り上げ50万円+肉用牛としての売却額10万円)の収入となります。

 

[図表]牛の将来キャッシュフロー

 

このように考えると、牛を飼うことで得られる収入は総額260万円(50万円×4年間+60万円)ということになります。状況を簡単にするために、牛を飼っている放牧地は牧草が豊富に生えていて餌代はかからないし、小川があって水もタダで飲めるとしましょう。そうすると、牛を買ったあとは特に支出はないため、手元に260万円が入ってきます。

 

このようにして、ファイナンス理論では、投資対象の価値を測る際に、その投資対象をキャッシュフローの系列に置き換えて考えます。そうすることで、あらゆる投資対象の公正価値を同じ枠組みで考えることができるのです。もちろん、投資家にとって関心があるのは、投資を開始してから後のキャッシュフローです。自分が投資を始めていない時に発生したキャッシュフローは自分に関係ないので、興味はありません。そのため、投資対象の公正価値を推定する際は、投資開始時点から見て将来の時点で発生するキャッシュフローのみを考えることになります。このように、将来時点で発生するキャッシュフローのことを将来キャッシュフローと呼びます。

 

<ポイント>

投資対象を、投資開始後のお金の流れ(将来キャッシュフロー)に置き換えて考える。

外資系生命保険会社の運用担当 

1982年福岡生まれ。外資系生命保険会社の運用部門に勤務。京都大学理学部・東京大学大学院理学系研究科卒(素粒子物理学専攻)。
大学院時代は世界最大の素粒子実験プロジェクトの研究員として活躍。その後メガバンクにクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当し、ニューヨークでヘッジファンドのマネージャーを経験。2016年に転職し、現職では10兆円を超える資産の運用に携わる。
欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向にも精通している。著書に『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ刊)がある。

著者紹介

連載資産運用の基礎知識――投資対象の価値を見極める「プライシング理論」

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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