前回は、「延命治療」が抱える問題点について説明しました。今回は、高齢者への「マニュアル通りの投薬」が引き起こす問題について見ていきましょう。

代謝が低い高齢者には、副作用への配慮が必要だが・・・

投薬についても、高齢者にとっては重大な副作用を引き起こす可能性があります。

 

高齢者は代謝が低いため、若者と同じ量の薬でも薬の副作用が強く出る可能性を考えなければなりません。しかし一般的に高齢者への投薬量の目安は、添付文章に「適宜増減」としか記載されていないものが多く、明確な基準がありません。

 

とくに高齢者を診る経験の少ない医師であれば、添付文章どおりの投薬をためらいもなく行ってしまうことが多いのです。

 

投薬のさじ加減を誤った結果、急性期に適切な治療を行えば本来治癒できる病気だったにもかかわらず、他疾患を併発し、廃用症候群を起こして寝たきりになってしまう患者も少なくありません。

 

たとえば成人同等量の抗生剤を高齢者に使うと、腎不全を起こし尿が出なくなり、その結果心不全を併発してしまう可能性があります。心不全によって治療期間が長引けば、その分身体を動かさなくなってしまうため、筋力が低下し廃用症候群を起こしてしまうわけです。

 

実際に私の病院に転院してきた患者のなかには、他院で肺炎治療をして肺炎はすっかり治ったものの腎不全も心不全も深刻な状態で、治療が難航してしまうケースもあります。

 

病気を治すことは重要ですが、その手段である薬で副作用が出てしまうようであれば、かえって患者に苦痛を与える結果になるのです。

多すぎる薬を管理できず、自宅に溜め込む高齢者も

高齢者医療において投薬量は、治療方法を決めるのと同じくらい重要な要素になります。その一方で、多すぎる薬を管理しきれずに薬を自宅に溜め込んでいたり、次々に廃棄している患者も少なくありません。

 

あちこちの病院をはしごし、同じ薬をさまざまな病院から処方されている高齢者は大勢います。同じ効用と知らずに薬を全部飲んでしまうと、副作用によって健康であったはずの臓器まで痛めてしまいます。

 

薬の種類と量の多さに、患者や家族が「こんなに薬を飲むのは嫌だ」と助けを求めてはじめて、医師はようやく「ほかでもこんなに薬をもらっていたのですか?」と気づくことになるのです。

 

多くの医師は、患者がほかの病院からどんな薬をもらっているかまで把握できないのが現状です。本来なら診察時に「飲んでいる薬はないか」「ほかの病院にはかかっていないか」「お薬手帳はあるか」と問診するべきなのに、なぜ、こうした事態が起きるのでしょうか。

 

薬を自宅で持て余している理由を聞くと、「ほかの病院に通っていることを話したら、先生が嫌がると思った」「先生と話をする時間がなくていえなかった」と答える患者が多くいます。

 

患者が医師と他院での治療や処方薬について話ができないようでは、正しい治療は行えません。高齢者に対する投薬・処方は、医療費増大にもかかわっています。厚生労働省が薬剤師を中心に複数の方法で調査した結果、適正な処方をすれば削減可能な薬剤費は年間6500億円にものぼるという試算も出ています。

 

その問題を打破するためにかかりつけ医制度が発展し、かかりつけ医がその患者のすべてを把握することが求められるようになりました。高齢者に最適な治療を行っていく上で、このかかりつけ医の役割は大きくなっていくことが予想されます。

医療・介護連携で実現する 高齢者のための地域医療

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佐藤 貴久

幻冬舎メディアコンサルティング

2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となり、全国民の3人に1人が65歳以上になると予想されています。これまでと同じ医療体制を続けていては、高齢者は自分の望む最期を迎えられないばかりか、増える高齢者によって医療費が膨…

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