手厚い治療が招く、患者の「寝たきり」「認知症の悪化」
手厚い治療によって、患者を寝たきりにしてしまい、認知症を悪化させてしまうこともあります。
たとえば、高齢者が急性期病床に入院すると、寝たきりの期間が長くなり廃用症候群を発症してしまうことがありますが、そうなれば長期間のリハビリを要し、ますます入院期間が延びてしまいます。ようやく退院する頃には認知症の症状が進行してしまうのです。
認知症の症状にはおもに「中核症状」と「周辺症状」の2つに分けられ、このうち周辺症状は周囲の理解や接し方によって改善することも悪化することもあります。
骨折や脳血管疾患などで入院を余儀なくされた患者たちは、1カ月程度ベッドで寝たきりになってしまい、それが原因で認知症の周辺症状が進み、徘徊や暴力といった症状があらわれてしまうのです。
国は「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会の実現を目指す」とうたっています。認知症の高齢者が地域のなかで生活することを推奨しているわけです。
しかし、症状が進行し、徘徊や暴力が激しくなると、退院しても家族だけではとても介護できなくなります。本人が住み慣れた地域で穏やかに暮らすどころか、周囲に疎まれ、憎まれ、嫌われてしまうという現実があるのです。
早期の「軽度認知障害」の発見・治療で認知症を予防
厚生労働省の発表によれば、2012年の認知症患者は全国で462万人。人口比率から計算すると、65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症と診断されていることになります。
加えて、まだ認知症ではないものの、認知機能の低下を有する軽度認知障害、いわゆるMCIと判断される人は400万人と推定され、発症している人と合わせると4人に1人以上となるのです。
MCIはさまざまな種類がありますが、そのまま放置しておくと認知症に移行する可能性が非常に高く、5年間で50%の人が認知症になってしまうといわれているほどです。
しかし、認知症になる前に手を打てば、正常な状態へ回復することも決して少なくはありません。MCI患者の2年間の経過を見た調査によると、約3~4割の患者が正常な状態に回復することが明らかになっています。早めにMCIを発見し、早期治療を行えば、認知症の予防にもつながるのです。
認知症にならないようにする。それでも発症してしまったら、家族が困らないように患者と家族を支援するための治療と介護を行う。治療だけでなく、予防や家族のサポートまでを行うことこそが、医療従事者の果たす役割なのです。
さらにいえば、認知症だけに限ったことではありません。いかに病気にさせないか、寝たきりをつくらないか、病気になっても在宅で充実した生活が送れるようにサポートできるか。高齢者の健康のすべてを支えていける医療を目指す。そのシステムを、私たち医療従事者がつくり、広めていかなければならない時がやってきているのです。
[図表1]軽度認知障害(MCI)
[図表2]2年間の追跡調査による認知症移行率の違い