プレイングプレジデントは、数字の把握を怠りがち!?
中小企業の経営者はプレイングプレジデントであり、自らあらゆることをこなさなければなりません。24時間休みなく働いても時間が足りないくらいです。
そのうえ、経営者は孤独です。製造業であれば「急に商品が売れなくなってしまったらどうしよう」、飲食店であれば「客足が減ってしまったらどうしよう」と常に不安に押しつぶされそうになります。その不安を解消してくれるのが経営計画です。
不安がゼロになるわけではありませんが、会社の将来を事前にシミュレーションすることで、経営状態が悪化したときにはその変化に早く気づき、手遅れになる前に対策を講じることができます。
経営計画は「予算」と置き換えることもできます。5年後、10年後には「こんな会社にしたい」という夢を描き、それを達成するために「1年後、3年後にはこれだけの売り上げを確保しなければならない」と逆算して予算を決めていきます。
予算を決めるためには、現状の会社の数字を把握していなければなりません。しかし、多くのプレイングプレジデントは、自分の会社の状態を把握する努力を怠っています。会社の状態を示すのが「会社の数字=財務指標」です。本来、経営者であれば、常に財務指標を頭に入れておかなければなりません。
財務指標を把握せず、予算を立てていないとなにが起こるのか。最も深刻な事態は資金ショートです。これは事業はうまくいっているのに「手元にキャッシュがない」状態のことです。
キャッシュがなければ、従業員に給料の振り込みをすることはできませんし、取引先への支払いをすることもできません。「1カ月待ってくれれば・・・」などと思うかもしれませんが、従業員には家族や生活がありますし、取引先にも資金繰りがあります。
金の切れ目は縁の切れ目ではありませんが、金払いの悪い会社からは優秀なスタッフも去って行ってしまうでしょうし、いつお金を支払ってくれるのかも分からない会社と取引しようなどと思う会社もありません。
しかしながら、経営者が常に資金繰りの心配ばかりしていたのでは、本業に力が入りません。これは私自身が起業した当時に抱えていた悩みでもあります。
私自身は、前述のように優秀な財務コンサルタントと出会ったことで会社の資金繰りが楽になりましたが、その状態を維持するためには会社の状況を常に把握していなければなりませんでした。しかし、会社の数字をチェックしている時間がない! それが正直なところでした。
移動時間に会社の数字をチェックできれば・・・
そんな私が悩みに悩み抜いて思いついたのが「1分間経営」です。1分間経営とは、スキマ時間に会社の数字を眺めて、お金が絡んだ経営課題に対する対策を考える、超多忙な経営者のための経営手法のことです。電車で移動するちょっとしたスキマ時間に会社の財務指標をチェックすることができたら、財務指標をチェックして悪いところを改善する対策まで考えることができたら──。会社の全体像を把握できるので、今後の事業戦略を立てやすくなるはずです。
幸い私は、IT関連の会社を営んでいますので、ITツールを作るのは得意分野です。移動時間にサッと会社の数字をチェックできる方法はないか。思考錯誤を重ねて、ツールを完成させました。
そのツールの特徴は本書『プレイングプレジデントの1分間経営』の第3章以降で具体的に解説していきますが、ここで特徴を一つだけ紹介すると、会社の財務指標がグラフで確認できることです。毎月、会社のデータが出そろったところで、このツールに数値を読み込むだけで自動的にグラフにしてくれます。
忙しい経営者は、スマートフォンやタブレットで電子ブックを眺めるように次々とグラフをチェックしていくだけです。1分間経営といいましたが、実際に財務指標のグラフを確認するのに要する時間は20~30秒ほどです。
仮に問題を発見して、部下に課題解決の指示メールを送ったとしても、1分あれば十分でしょう。
実は、スキマ時間を利用して会社の財務指標をチェックできるようにしたことで、うれしい副次効果がありました。それは、短時間に何度も視覚的にインプットすることで、記憶に残りやすく、知らず知らずの間に潜在意識のなかで解決策が導き出されていることです。
次回は、具体的に1分間経営にはどんなメリットがあるのかを紹介していきましょう。