「不良資産を優良な資産に変える」という視点が大切
連載「馴れ合いのない対策で実現する相続税の節税」では、さまざまな事例を紹介して相続税対策の方法を見てきました。中にはうまくいっていない事例も紹介しましたが、相続に不慣れな税理士と、慣れている税理士の違いが生まれた原因は、主に3つのものが考えられると思います。
1つ目は、将来的なビジョンや計画性なしに、行き当たりばったりで相続を乗り切ろうとしたこと。
2つ目は、税の仕組みやルール、特例などをよく理解していないために、有効な対策がとれなかった、もしくは間違った対策を選んでしまったこと。
3つ目は、資産を守るうえで何が得で何が損かを見極める、ビジネス的な視点が欠けていたこと。
本連載では、3つめの「ビジネス的な視点」について取り上げたいと思います。「相続におけるビジネス的な視点とはどんなことなのか?」と思う人もいるかもしれません。しかし、日本における富裕層の典型は地主型のお金持ちです。この人たちが主に所有するのは土地・建物を中心とした不動産です。
この不動産という資産を守るということは、今ある資産の価値を落とすことなく維持したりさらに向上させたりして、将来に引き継ぐことを意味します。つまり、「不良資産を優良な資産に変える」という視点が大切なのです。
ものの価値というのは、不動産でも株式でも、またその他のどんな種類のものでも決して永遠ではありません。最近の上場株式や金相場のように需給によって値上がりするものもありますが、たいていのものはそのまま自分で何もせず、他人任せで放置していると、価値が下がっていくことが多いと思います。
それを上手に運用したり活用したりメンテナンスしたりして、維持・向上させていくことが大事です。これはビジネスそのものの考え方とも共通するはずです。
不動産を活用した相続税対策には大きなリスクが・・・
そのまま放置していると価値が下がるものの最たる例は、不動産です。かつて放っておいても不動産の価格が高騰したバブルのような時代もありましたが、あれは今となっては夢物語です。今後の日本で、特に地方ではあのような不動産の価格上昇が訪れる可能性は、限りなくゼロに近いでしょう。
そうしますと、不動産賃貸業は今最もシビアなビジネスの1つだといえそうです。先々、何もしなければ、その価値が下がることがほぼ確定しているためです。
それでも多くの資産家の方にとって、不動産を活用した相続税対策は魅力的に見えるようです。節税のために賃貸不動産を購入するのですが、このご時世、せっかくの相続税対策が功を奏していないどころか、かえって足を引っ張っているケースをよく目にします。
借金をしてまで購入したものの、空室ばかりが目立つ賃貸物件は、まさに〝借金コンクリート〞です。なぜ世の中に借金コンクリートがたくさん存在するのかというと、それは建てた人にビジネス的な視点が足りなかったからといわざるを得ません。
「本当にその立地で借り手がつくのか」
「人が住みたいと思う魅力がその建物と土地にあるのか」
「いくらの家賃に設定すれば採算が合うのか」
といった見極めが甘かったとしか説明のしようがないのです。銀行や住宅メーカーに乗せられたという人もいるかもしれませんが、最後に決断をしたのは所有者本人です。その点は残念ながら言い訳のしようがないと思います。
そこに資産家がいるとわかれば、いろいろな思惑を持った人たちがやってきます。銀行はお金を貸したいし、不動産業者はアパート・マンションを建てさせたいものです。保険会社は契約が欲しいし、貴金属商は宝石を買ってはくれまいかと思っています。彼らも商売ですし、消費者に夢を語り、想いを売っています、それ自体は間違っていません。そして最終的な意思決定をするのは資産家のみなさんです。