前回に引き続き、事業承継に伴い「同業他社との経営統合」を行う方法を説明します。今回は、共同持株会社の設立や、合併のメリットなどを見ていきましょう。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

従業員の抵抗感が少ない「共同持株会社の設立」

前回の続きである。

 

(3)共同持株会社の設立

合弁事業よりも関係を深めようとして同業者との経営統合まで進める場合、大きく2つのスキームがある。

 

一つは、共同持株会社を設立して、各社が子会社としてその傘下に入るという方法である。持株会社による経営統合のメリットは、各社の法人格そのまま存続するため、緩やかな統合が可能だという点である。従業員の抵抗感や実務上の統合作業も少なくて済み、スムーズに統合作業を進めることができる。

 

一方、デメリットとしては、各社がそのまま併存するため、シナジー効果が発揮しにくいという点が挙げられる。これでは経営統合した意味があまりないので、一定期間後に各社を合併させたり、事業分野ごとに再編したりするなどしたうえで、最終的には合併まで進める必要がある。

 

共同持株会社の設立によって、売り手は持株会社の株主となる。売り手は株式価値が高まった後に買い手に対して株式を売却することを予定する。最終的に株式を売却する方法(プット・オプションまたはコール・オプション、タイミング、価格の算定方法)については株主間契約において決められることになる。

早期にシナジー効果を実現できる「いきなり合併」

(4)合併

もう一つは、各社がいきなり合併するという方法である。合併には、いずれかの会社の社名を残すケースと、合併と同時に新社名にしてまったく新しい会社としてスタートさせるケースがある。

 

一方の社名を残す場合、社名が消えた対象会社の従業員にとっては、会社が乗っ取られたという心情が生まれやすい。その点、新社名に変える場合には勝ち負けのような印象がないので、従業員の抵抗感は少ないものと思われる。

 

いきなり合併させる方法のメリットは、短期間で一気に経営統合するため、早期にシナジー効果を実現できる点にある。法人が一体化するため、組織や情報システムだけでなく業務プロセスまで短期間で統一することが求められる。

 

一方、デメリットは、早急な統合作業に対して現場に負荷がかかり、組織の混乱を招いてしまう可能性がある点である。そのため、合併による経営統合を行う場合は、統合作業のための準備期間を十分にとって、効率よく作業を進める段取りを整えておく必要があるだろう。

 

合併によって、売り手は買い手の株主、あるいは、買い手の子会社の株主となる。売り手は株式価値が高まった後に買い手の株主または買い手に対して株式を売却することを予定する。最終的に株式を売却する方法(プット・オプションまたはコール・オプション、タイミング、価格の算定方法)については株主間契約において決められることになる。

 

(5)統合比率の決め方

同業者との経営統合交渉を進めるときに問題となるのが、統合比率をどのように決めるかということである。

 

統合比率は、各社の1株当たりの株価の比率として決定される。たとえば、A社の株価が100円、B社の株価が200円だとすると、統合比率は1対2となる。この場合、B社が消滅してA社が存続すると、B社株主に対して1株につきA社株式2株を新たに交付することになる。つまり、A社株式とB社株式の価値が等しくなるように新株を発行するということである。経営統合には新株発行が伴うが、統合比率によって経営支配権の大きさが左右されてしまうことになる。

 

純然たる第三者間の経営統合であれば、統合比率のベースとなる株価は、条件交渉を通じて決めたものでよい。しかし、同族株主間の経営統合の場合は、税務上の時価によることが望ましい。

 

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