今回は、事業承継に伴う「同業他社との経営統合」のポイントを見ていきます。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

相手の経営資源の一部を活用する「株式の継続保有」

(1)株式の継続保有

実務における親族外承継(M&A)は、株式100%譲渡のように支配権の全部を手放してしまう取引だけではない。支配権の一部を留保する取引スキーム、たとえば合弁会社設立や持株会社統合という方法も採用させることがある。これは、相手の持っている経営資源の一部を活用しながら、徐々に親族外承継(M&A)を進めていく方法である。

 

親族外承継(M&A)後に一部継続保有した株式があったとしても、価値が高まった後で売却することが予定されているのである。

 

近年、中小企業であっても、同業者との経営統合を模索する動きが増えている。ニッチな市場で中核的な地位をより確実なものにするという積極的な目的のものもあれば、狭い業界の中での価格競争から脱却するという目的もある。

 

業界のトップ企業同士が経営統合することによって、過当競争状態を解消しようと考えることは、成熟した市場では自然の流れといえる。わが国で施行された産業競争力強化法に基づく事業再編促進税制の趣旨はそこにあるといえる。

各社の強みを利用し、自社の弱みを補完する「合併」

(2)合弁会社の設立

経営統合を行う場合、事業の一部の組織再編を行い、合弁事業を営む会社(合弁会社)を設立する方法から関係構築を始めるケースが多い。

 

合弁会社とは、2つ以上の会社が経営資源を共同で所有する会社のことをいう。このスキームには、他社の経営資源を組み合わせることによってシナジー効果を生むことができるメリットがある反面、これまで自社の経営資源を自由に使ってきたものが、共同所有になったことにより、それなりの制約を受けるというデメリットがある。

 

厳しい外部経営環境に立ち向かい、競争力を高めていく経営戦略として、他社の経営資源を活用できる合弁会社設立は有効である。各社の持つ強みを利用し、自らの弱みを補完できるような技術提携販売提携の関係を構築できる。

 

このような合弁事業を進める場合、その業界自体の再編にまで進むケースもある。複数の同業者が、それぞれの持つ経営資源を集中させることにより、一体となった企業グループを形成したり大企業を設立したりすることも可能となる。

 

合弁会社の設立によって、売り手は合弁会社の株主となる。売り手は株式価値が高まった後に買い手に対して株式を売却することを予定する。最終的に株式を売却する方法(プット・オプションまたはコール・オプション、タイミング、価格の算定方法)については株主間契約によって決められることになる。

 

この話は次回に続く。

 

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