前回に引き続き、会社の売却において、買い手に「合併」される場合の手続きについて見ていきます。今回は、債権者保護手続なども併せて説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

債権者が不利益を被ることのないよう「手当て」が必要

前回の続きである。

 

(3)債権者保護手続

合併を実行することは、その会社の債権者にとっても重要な関心事であるため、債権者が不利益を被ることのないような手当てが必要である。そこで、合併においては、原則として、官報によって公告するとともに、すでに取引のある債権者に対しては個別に通知して、債権者が合併に関して会社に異議を述べるための機会を与える。

 

合併の手続上、 1か月以上の期間を定めて、債権者保護手続を行う必要がある。また、債権者保護手続前に、最終の決算期にかかる貸借対照表等の計算書類の要旨等につき、会社が定款で定める公告方法によって公告する必要がある。

 

したがって、これらを考慮すると、手続開始から合併の効力発生日までは2か月程度の期間をかけて行う必要がある。

 

(4)効力発生日

合併は、その登記が効力要件ではなく、合併契約書によって任意の日を効力発生日に指定することができる。したがって、法務局が閉まっている土日祝日をその効力発生日とすることも可能である。たとえば、合併の効力発生日を1月1日とすることも可能である(この場合、登記申請は法務局が開く1月4日以降となる。)。

 

(5)被合併会社における税務上の取扱い

親族外承継(M&A)の後の合併は買い手側の問題であり、買い手による子会社合併となる。それゆえ、ほとんどのケースは適格合併に該当する。この場合、被合併会社の資産および負債が簿価で合併会社に移転する。したがって、対象会社の含み損益は発生せず、税負担は発生しない。

 

なお、事業年度の中途で合併が行われる場合、対象会社は合併期日の前日を事業年度末日とみなして所得金額を計算して申告をする。そのため、実務上は、月の初日である1を合併期日とするケースが一般的である。たとえば、 3月決算会社が10月1日を合併期日として適格合併した場合は、合併期日の前日である9月30日を事業年度末日とみなすことになる。

繰越欠損金を「必ず引継げるわけではない」点に注意

(6)繰越欠損金の取扱い

適格合併に該当した場合、対象会社の資産および負債が簿価で買い手に移転する。ただし、繰越欠損金を必ず引継げるわけではない

 

合併を行った場合、その合併が適格合併に該当するときは、売り手の繰越欠損金を買い手に引き継ぐことが認められている。ただし、繰越欠損金の引継ぎを無制限に認めると、例えば、多額の繰越欠損金を有する法人を買収し、その後に適格合併を行うことで、売り手の繰越欠損金を不当に利用できてしまうため、引継ぎに際して一定の要件が定められている。

 

一方、対象会社の繰越欠損金のみに制限を設け、買い手の繰越欠損金には制限を設けない場合には、「逆さ合併」を行うことにより、対象会社の繰越欠損金を買い手の繰越欠損金として利用することや、対象会社から引き継いだ資産の含み益と買い手の繰越欠損金を相殺することができてしまうため、買い手の繰越欠損金についても利用に際して一定の要件が定められている。

 

そのため、買い手と対象会社の両方の繰越欠損金を合併後においても使用あるいは引継ぐことができるかが重要なポイントとなる。

 

また、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の問題がある。組織再編税制では、合併前から保有している資産の含み益と合併時に引継ぐ資産の含み損を不当に相殺する等の合併を利用した租税回避行為を防止するために、支配関係が生じてから5年を経過しない会社との間で合併等を行った場合には、一定の損金算入制限を受けることがある。

 

そのため、合併前から保有している資産と合併によって引継ぐ資産の含み損を、合併後においても使用あるいは引継ぐことができるかが重要なポイントとなる。

 

たとえば、合併時においては、買い手が保有する資産および対象会社から引き継いだ資産の「含み損」が合併後に売却によって実現した場合であっても損金算入できない場合があるので注意が必要である。

 

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