今回は、親族外事業承継における非上場株式の「所得税法上の時価」について説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

譲渡側が個人なら、所得税法上の時価での評価が基本に

非上場株式を譲渡する当事者が個人の場合、所得税法上の時価によって評価することが基本となる。この場合の原則的な取扱いは、所得税基本通達23~35共-9(株式等を取得する権利の価額)に規定されている。

 

また、特例として、相続税法上の時価を援用した条件付き計算方法が所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)に規定されている。

 

所得税基本通達23~35共-9(株式等を取得する権利の価額)

 

令第84条第1号から第4号までに掲げる権利の行使の日又は同条第5号に掲げる権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日。以下この項において「権利行使日等」という。)における同条本文の株式の価額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。

 

(1) これらの権利の行使により取得する株式が金融商品取引所に上場されている場合

 

当該株式につき金融商品取引法第130条《総取引高、価格等の通知等》の規定により公表された最終の価格(同条の規定により公表された最終の価格がない場合は公表された最終の気配相場の価格とし、同日に最終の価格又は最終の気配相場の価格のいずれもない場合には、同日前の同日に最も近い日における最終の価格又は最終の気配相場の価格とする。)による。なお、2以上の金融商品取引所に同一の区分に属する価格があるときは、当該価格が最も高い金融商品取引所の価格とする。

 

(2) これらの権利の行使により取得する新株(当該権利の行使があったことにより発行された株式をいう。以下この(2)及び(3)において同じ。)に係る旧株が金融商品取引所に上場されている場合において、当該新株が上場されていないとき

 

当該旧株の最終の価格を基準として当該新株につき合理的に計算した価額とする。

 

(3) (1)の株式及び(2)の新株に係る旧株が金融商品取引所に上場されていない場合において、当該株式又は当該旧株につき気配相場の価格があるとき

 

(1)又は(2)の最終の価格を気配相場の価格と読み替えて(1)又は(2)により求めた価額とする。

 

(4) (1)から(3)までに掲げる場合以外の場合  

 

次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる価額とする。

 

イ 売買実例のあるもの

最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額

 

ロ 公開途上にある株式(金融商品取引所が内閣総理大臣に対して株式の上場の届出を行うことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式及び日本証券業協会が株式を登録銘柄として登録することを明らかにした日から登録の日の前日までのその株式)で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出し(以下この項において「公募等」という。)が行われるもの(イに該当するものを除く。)

 

金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額

 

ハ 売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの

当該価額に比準して推定した価額

 

ニ イからハまでに該当しないもの

権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

 

原則となる評価方法はこのように規定されてはいるものの、非上場株式の譲渡のうち、売買実例のあるものや公開途上にあるものはわずかであるため、一般的には「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によって時価を判定していくことになる。しかし、この価額の具体的な計算方法が明確ではない。

 

そこで、「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の具体的な取扱いを明らかにするため、財産評価基本通達を援用する規定が設けられている。これが、所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)であり、次のように、一定の条件の下に、財産評価基本通達を援用して計算した評価額を時価とすることを認めている。

 

所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)

 

法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。

 

(1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

 

(2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

 

(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。

 

(4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

 

法人税相当額の控除については、財産評価基本通達は会社の清算を前提にしているため控除するが、所得税の計算上は継続企業を前提としているため、控除しない。

 

また、(2)において土地の評価について規定されているが、建物に関する規定は設けられていない。したがって、土地については常に「通常の取引価額」で評価するが、建物については3年以内に取得したものは「通常の取引価額」で評価し、3年超保有するものについては相続税評価になることに注意すべきである。

 

さらに、貸家建付地を保有する場合、「借地権×借家権」の減額調整できるかどうかについて規定がないが、実務上は減額調整しないケースが多い。

取得後が取得前か・・・同族株主の判定にも注意

なお、財産評価基本通達では、同族株主の判定にあたり、取得後の株式数によって判定することになるが、個人が当事者となる株式譲渡の場合はこれと全く異なり、取得前(譲渡の直前)の株式数で判定することとなっている。すなわち、譲渡後の保有株式数が減った状態で同族株主を判定することは認められない。ここが重要な相違点であるため、注意が必要である。

 

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