今回は、「相続税法上の時価」の理解の重要性を見ていきます。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

所得税基本通達等に設けられていない「時価の算定方法」

会社を売買する場合、当事者が個人の場合は所得税の規定を、法人に場合は法人税の規定を適用することになる。

 

この点、所得税基本通達や法人税法基本通達には、時価の算定方法について個別の規定は設けておらず、国税庁の財産評価基本通達に定められている評価方法を条件付きで援用することとしているため、財産評価基本通達で定められている相続税法上の時価を理解しておくことが重要である。

 

また、取引価額が時価から大きく乖離した場合、受贈益課税が発生する可能性があるため、個人の贈与税については相続税法の理解が必要である。

非上場株式を取得する場合の判定基準に留意

国税庁の財産評価基本通達は、非上場株式の時価を規定している。ここでは、株式を発行する会社の規模やその株式を取得した者の会社に対する支配力に応じて、以下の4つの評価方式を採用している。

 

①類似業種比準価額方式

②純資産価額方式

③類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用方式

④配当還元方式

 

非上場株式は、「株式の持株割合」と「発行会社の規模」によって、いずれの評価方法を適用するかが決まる。これは、非上場会社の株式は、その株式を所有する株主の持株数によって価値が異なるからである。例えば、企業オーナー一族のような同族株主は、その会社の株式の大部分を所有し、その所有を通じて会社を支配しているので、株式には会社支配権としての価値がある。

 

これに対して、同族以外の従業員や役員などで少数の株式を所有している株主は、その目的が会社から配当金を受け取ることのみであるため、株式には配当を期待できる程度の価値しかない。

 

このため、非上場株式を取得する者は、取得後の持株割合に応じて、「原則的評価方式(類似業種比準価額方式、純資産価額方式およびその併用方式)」を適用すべき同族株主と、「特例的評価方式(配当還元方式)」を適用すべき少数株主とに区分される。ここでの株主の判定は、所得税基本通達とは異なり、株式を移動した後の株式数に基づいて判定する点に注意が必要であろう。

 

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