今回は、売却する会社の株式の、「公正価値の評価」を決める三つの手法を紹介します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

「収益性基準・市場価格基準・資産性基準」

公正価値の評価には、様々な手法があるが、大別すると収益性基準、市場価格基準、資産性基準という三つ考え方がある。

 

収益性基準は、評価対象会社から期待される将来の利益ないしキャッシュ・フローに基づいて事業価値を評価する考え方である。一般的に将来の収益獲得能力を株式価値に反映させやすいアプローチといわれる。

 

この点、利益を現在価値に割り引いて株式価値を計算する収益還元法もあるが、現在の主流は、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて事業価値を計算するDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)である。

 

市場価格基準は、上場している同業他社や類似取引事例など、類似する会社、ないし取引事例と比較することによって相対的に事業価値を評価する考え方である。一般的に比較対象とした上場会社の株価や取引事例は、その会社や事業の将来価値も含めた継続価値と考えられている。

 

この点、取引事例として公表されたM&A事例を集めることは容易ではないため、適用されるケースはほとんどない。それゆえ、非上場会社の場合は、公表される上場会社と財務データと市場価格の倍率を用いる類似上場会社比較法が主流である。

 

資産性基準は、主として会社の貸借対照表上の純資産に注目した考え方である。基本的に資産および負債を時価で評価して純資産を計算する修正純資産法が主流である。

予測数値に対する恣意性の排除が難しい「DCF法」

それぞれの方法には、メリットもあればデメリットもある。DCF法は、前述のとおり、会社が将来獲得すると予想されるキャッシュ・フローに基づいて評価することから、将来の収益獲得能力を評価結果に反映させることができる。しかし、予測数値に対する恣意性の排除が難しく、客観性が間題となるケースもある。

 

類似上場企業比較法は、証券市場で取引されている株式との相対的な評価方法であるため、市場での取引環境の反映や、一定の客観性には優れているといえる。しかし、他の企業とは異なる成長ステージにあるようなケースや、そもそも類似する上場会社が無いようなケースでは評価が困難であり、評価対象となっている会社固有の性質を反映させられないケースもある。

 

修正純資産法は、帳簿上の純資産を基礎として、時価評価に基づく修正を行うため、帳簿記録が適正で時価情報が取りやすい状況であれば、客観性に優れているといえる。しかし、一時点の純資産に基づいた価値評価を前提とするため、将来の収益力の反映や、市場での取引環境の反映は難しい。

 

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