実際にいくら足りないのか? 納税法はどうするか?
前回の続きです。
まずは、論点を整理することから始めます。
〈佐藤さんのケースにおける論点〉
①相続税の納税資金が足りないことは、おおよそ見当がつくが、実際にどれくらい足りないのか。
②相続税の納税については、どのような方法をとるか。すなわち、現金で全額を一括して納付するか、分割払い(延納)にするか、相続で取得した財産で納税(物納)するか。
③現金で一括して納付する方法を選択したとき、現金をどのように用意するか。すなわち、相続人が所有している金融資産から支払うか、銀行から借入を行なうか、相続した不動産や相続人が所有している不動産を売却して現金を用意するか。
次に、これらについて結論を出す(解決する)ためにしなければならないことを明確にします。
〈論点を解決するためにすべきこと〉
①相続税の納税資金が足りないことは、おおよそ見当がつくが、実際にどれくらい足りないのか。
●相続財産について財産評価を行ない、相続税額を計算する。
●相続税以外にかかる費用を見積もる(不動産の名義変更、相続税申告に係る税理士報酬、司法書士や弁護士を遺言執行者とした場合の執行報酬など)。
●相続人の納税後の生活費の算定。
②相続税の納税については、どのような方法をとるか。
●まずは、現金で一括納付できる方法を検討する。
●分割納付(延納)や相続財産で納付(物納)する場合は、適用要件を満たすかどうかを確認する。
●物納を選択した場合、どの財産を納めるかを決め、必要な手続きと書類の準備を行なう。
③現金で一括して納付する方法を選択したとき、現金をどのように用意するか。
●相続した金融資産や相続人が所有する金融資産にて納税することが一番望ましいので、相続財産に預金や有価証券があれば換金する。
●銀行からの借入が必要な場合は、担保や融資条件、金利、返済方法について早い段階で相談する(返済条件にもとづくシミュレーションも実施する必要あり)。
●相続した不動産を売却する場合、利用状況、収支状況、利回りなどを分析してランク付けを行なう。
様々なシミュレーションの結果、無事納税できたが…
佐藤さんの場合は、お姉さんの生前に相続対策を一切行なっていなかったこともあり、49日の法要を過ぎて相談に来られてからの限られた時間のなかで、多くのことを検討する必要がありました。しかし、そうしたなかでも最優先したのは、佐藤さんにとって、どの方法をとるのが一番有利であるかということです。
概して、銀行からお金を借りるにしても、不動産を売却するにしても、納税期限があるというので足元を見られ、決して有利とはいえない条件で進めていかざるを得ないケースも実際にはあります。
結果として佐藤さんは、不動産を売却することを選びました。しかし、限られた時間のなかで、しっかりとスケジュールを立て、相続税や不動産の売却に係る税金についてさまざまなシミュレーションを複数回行ない、数字の根拠にもとづいて具体的な筋道を立てられたこと、そして、各専門家がチームを組んで知恵を出し合いながら協力体制をしっかり築いて対応することができたため、幸いにも佐藤さんにとって、非常にいい条件で売却することができ、相続税の納税を無事に済ませることができました。
私もそれまでの経験から、相続税や不動産に関する税金の取り扱いにはある程度、自信がありましたので、シミュレーションを複数回行なうことは決して苦ではありませんでした。そして、手前味噌ではありますが、相続税に強い税理士だからこそ、スケジュールどおりに案件を進めることができたと言っても過言ではないと思います。税理士ならば、誰でもできるというわけではありません。
とはいえ、相続対策は、いざ相続が発生してからでは、時間に限りがありますので、できることにも限りがあります。やはり、相続が発生する前から、ある程度余裕をもって対策をすることができれば、あたふたすることはありません。
佐藤さんについても、もし、佐藤さんのお姉さんと生前からお付き合いがあれば、相続対策をいくつもご提案しながら、できる限りの節税をすることも可能だったでしょう。特に財産額が大きくなればなるほど、節税できる額は大きくなりますので、早めの相談が相続対策の第一歩ではないかと思います。