前回は、経営承継に成功した事例の②として、課題解決に最適な人材を選定するまでの流れを紹介しました。今回は、登用した人材が現場で活躍し、正式な後継者候補となるまでを紹介します。

業務システムの改善・営業スタッフの育成に力を発揮

〈戸波氏のご登用後の活躍〉

ご入社後、戸波氏は高岡社長の許可を得て、営業部全員と面談をした。そこでわかったことは、社内の業務管理ソフトを使えない(パソコンスキルがおぼつかない)社員が何人かおり、いまだに請求書を手で書いて、お客様に持参している人もいた。

 

また、リフォーム事業の女性の営業部員(パート社員)の多くが、携帯でメールは打てるが、パソコンを利用した経験が少なく、業務日報に詳細情報を入力できない人もいた。そのため、帰宅時間が遅くならないよう、適当に入力。あとは口頭で報告していたことがわかった。その結果、お客様情報が十分に共有されず、それがクレームの原因になっていたのである。

 

そこで戸波氏は、再び高岡社長の許可を得て、立山建築の社内システムを専属で開発している石川産業に、業務システムの仕様を次のように変更することを依頼し、情報管理の徹底を図ることにした。

 

●業務システムの簡易化→なるべくボタン一つで請求書が発行できる→請求書の一括管理

●携帯で外部からも日報が書けるようにする→女性パート営業が移動時間でも簡単に入力ができる

 

そして、営業スタッフに対しては次のような方針で臨み、丁寧に育成した。

 

●都度都度、同行訪問をし、現場トレーニングをしていく

●社内教育研修制度を開始(当初は任意参加で実施)

●業務日報に関しては、部下のコメントに丁寧に対応し、その日のうちに返信する

経験を積み、正式な後継者として「取締役副社長」へ

ところで、こうした改革の一番の成果は、意外な事実が表出したことだった。立山建築のある営業担当者が、クライアント企業の担当者と一緒になって横領していたことが判明したのである。また、今回、業務システムの仕様変更を依頼してみて、石川産業からの請求額が、不当に高いものであることも明るみに出た。高岡社長が、あまりIT関係に詳しくないことにつけ入ったもので、立山建築側はそうとも知らず、その高い額を過去に何度も支払っていたのであった。

 

さて、戸波氏が入社して3年が経ち、当初多発していたクレームは、ほぼ「ゼロ」になった。利益も10%増。戸波氏は、営業部長から昇格して、現在は取締役副社長に就任。営業だけでなく全社の経営を見るようになった。

 

高岡社長は70歳になり、現在、戸波氏を正式な後継者として考えており、現場の判断をゆだねるとともに、戸波氏に株を譲渡する準備も始めた。

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