「社宅」を退職金の一部に組み込めば・・・
オーナーである社長の自宅を会社の社宅扱いにすることで節税を図る場合があるが、親族外承継(M&A)を考えれば、この社宅の扱いを解消しなければならない。
一般的には、オーナー個人が当該社宅を買い取ることになる。オーナー社長の退任に伴う役員退職慰労金が多額になる場合には、社宅を退職金の一部分に組み込むことも効果的である。社宅の時価評価相当額が退職金に組み入れられたと考えればよい。
また、法人契約による役員向けの生命保険は、役員に万一の事態が発生したときの保障だけでなく、保険料の全部又は一部が損金算入されることから、節税手段として利用されることが多い。対象会社の価値を評価する際には、この生命保険の解約返戻金を加算することが一般的である。
親族外承継(M&A)によってオーナーが退任すれば、基本的には生命保険は解約されて現金化されることになる。
その一方で、保険がなくなるオーナー個人が何らかの生命保険に個人的に入りたいと考えたとしても、その年齢がネックになって個人契約の生命保険の新規加入は難しい場合がある。
こうした場合には、既存の役員向け生命保険の契約者や受取人を変更して、その権利をオーナー社長に譲渡する方法がある。親族外承継(M&A)時点での解約返戻金の額をその時点での適正な時価とみなして、その金額でオーナーが対象会社から生命保険の権利を買い取るか、役員退職金の一部として譲り受けることになる。
少数株主が分散している場合は、株式の手放し交渉を
企業買収の目的は経営権の獲得であるから、買い手は発行済み株式100%の買い取りを希望することが一般的である。それゆえ、株主が複数いる会社であれば、オーナー(筆頭株主)は、親族外承継(M&A)の実行前に他の少数株主から株式譲渡について同意を得ておかなければならない。
株式譲渡で親族外承継(M&A)する場合、オーナーが100%株式を保有しているのであればオーナーの一存で売却できるが、他にも株主がいる場合は彼らの歩調をあわせなければならない。
それでも親子など近しい親族だけであれば問題ないのであるが、遠い親戚や元従業員など滅多に接することのない人が株主の場合は、株式売却に同意してもらえるかどうかわからない。特に度重なる相続で株式が分散してしまっている場合は、遠い親戚に連絡をとるだけでも一苦労というケースもある。
しかし、株主から売却の同意を取りつけるのは、売り手の役目である。契約上、株式を売買するのは各株主と買い手だが、条件交渉は買い手が各株主と個別に行うわけではなく、売り手の大株主(オーナー経営者)が株主を代表して行うことが一般的である。最終的には、その大株主が他の株主から委任を受けて株式譲渡契約を締結することになる。
最終的に株式の譲渡代金を受領するのは各株主であるため、各株主に取引価額まで同意してもらう必要がある。そのため、一般的には、先に買い手との話しを進めておき、ある程度価格の目線が一致した段階で話をすることになる。
通常は、基本合意にて取引価額を仮決定するので、各株主への説明は基本合意後となる。各株主に対しては、親族外承継(M&A)を考えた背景、買い手を選んだ理由、売却価格の決定根拠などを説明し、親族外承継(M&A)に対する理解を求めることになる。
会社経営に関与しない少数株主は、経済的メリットがあれば同意してくれる可能性は高い。株式を手放すことに応じるかどうかは、価格次第というケースが多いようである。同意を得ることができれば、株式譲渡に関する委任状を書いてもらう。
もし反対する株主が出てきた場合は、まずは創業家で影響力のある人物などを担ぎ出して説得にあたるなど、あらゆる手を尽くして同意を取りつける努力を行うことである。それでも同意しない場合は、全部取得条項付種類株式を発行するスキームなどスクィーズ・アウト(少数株主排除)の手法を使い、買い手が強制的に株式を買い取ることになる。
一方、オーナーの株式譲渡と足並みそろえて株式譲渡させるのではなく、オーナーが他の株主から事前に株式を買い集めてしまうという方法もある。売り手のオーナーは、親族外承継(M&A)を考え始めたときからは、株式が分散しないよう心がけるとともに、機会があれば少数株主から買い取るなど株式の集約を進めておくことが必要である。
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