今回は、第三者への事業承継を見据えてオーナ社長が行うべき準備を取り上げます。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、親族外承継(会社売却・M&A・事業承継)の進め方について詳しく説明します。

重要なのは「売却価格の最大化」と「将来価値の最大化」

親族外承継(M&A)によって第三者へ事業承継する際には、売り手にとっての売却価格最大化という視点とともに、承継する買い手にとっての将来価値最大化という視点の双方を充足させなければならない。

 

そのためには、対象会社の特徴や強み、事業戦略などを買い手に正しく理解してもらうことが必要である。そのためには、以下の準備を行う。

 

第一に、事業活動を定量化しておくことである。会社の財務内容を明瞭に把握できるようにするため、過去の決算書及び事業計画を整備することは基本である。決算書や勘定明細はもちろん、そのデータの根拠となる内部管理資料も必要になる。例えば、小売業であれば店舗別や商品別の売上データ、製造業であれば製品別の売上や営業利益、開発・製造コスト、建設業であれば工事別の売上や粗利などの資料の整備である。

 

買い手の立場に立ってみると、定性的な情報だけでいくら買収を提案されたところで、本当に価値があるのか不安が残る。買い手が安心して買収するためには、また適正な取引価額での取引を実現するためには、あらゆる事業活動を定量化しておくことが望まれる。

 

第二に、経営戦略を明確化しておくことである。対象会社は、資金不足等の理由から、本来実施すべき設備投資を怠っていたり、人材採用や育成などが滞っていたりするケースがある。実現できなった各種戦略や改善のための施策、及び施策を実行するために必要となる経営資源を明らかにすることで、事業の成長可能性がアピールできる。

 

第三に、会社の事業価値源泉を明確化しておくことである。例えば、買い手が事業会社ではなく投資ファンドとなる場合、投資ファンドは事業そのものの専門家ではないため、対象会社の事業価値源泉を理解することが容易ではない。

 

例えば、「人材の質が高い」といったような定性的な言葉で強みをアピールしても相手には適切に伝わらない。

 

事業価値源泉の明確化も定量的な裏づけをもって行うことが望ましい。人材が事業価値源泉というのであれば、その人材がもつ知識やノウハウ、資格などを具体的に示す準備を行うとともに、競合他社と比較して、どの程度優れているのかを定量的に表す。

 

例えば、「○○資格の保有者が○人」や「○○○の製造経験10年以上の技術者が○人」、「○○に対して○億円の取引を受注している営業マンが○人」というように具体的かつ定量的に強みを相手に伝えるようにすると、理解してもらいやすい。事業価値源泉を明確にすれば、売却価格の最大化につながる。

 

事業活動を定量化すること、経営戦略を明確にすること、事業価値源泉を明確にすることは、相応の手間と時間がかかる。しかし、親族外承継(M&A)のプロセスを円滑に進めて、売却価格の最大化を実現するためには必須となる準備なのである。

経営管理体制を整備し、交渉の破談を防ぐ

中小企業の場合、親族外承継(M&A)の前に準備しておくことがもう一つある。それは、経営管理体制を整備しておくことである。

 

中小企業のM&A実務では、経営管理体制の不備が問題となって交渉が破談になるケースが非常に多い。例えば、労務管理、財務管理、生産管理、品質管理、契約管理などである。こうした経営管理体制が杜撰な会社は、いくら事業価値が高いとしても、その価値を買い手に承継することが困難となり、結果として交渉がまとまらない。

 

たとえば、労務管理がずさんで、多額の残業代未払い問題が発覚し、交渉が頓挫するケースがある。また、得意先との取引基本契約が杜撰で、契約書の多くを紛失しており、得意先関係の継続に疑念を抱いた買い手が交渉を中断するケースがある。

 

さらに、工場の品質管理体制に不備があり、品質不良によるクレームが相次いで発生しているような場合、買い手からは将来の製品保証をマイナスのキャッシュ・フローとして評価され、取引価額の大幅な減額を求められるケースもある。

 

親族外承継(M&A)においては、経営管理体制が整備されていることも重要な事業価値源泉の一つであることを忘れてはならない。

 

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