会社を子供に継がせるのが一般的な選択肢だが・・・
会社の事業承継は、子供に継がせることが基本である。事業の成長性に問題がなければ、安心して子供に経営を任すことができる。残された株式相続の問題だけ考えておけばよい。一方、子供が後を継ごうとしない場合は、親族外承継(M&A)を考える。
問題となるのは、子供を後継者としたいと考えていても、彼らに会社経営の意欲や能力がない場合である。子供に会社を任せて大丈夫なのかと不安になることだろう。
また、子供を後継者にするとは言っても、会社の経営環境が厳しい場合も同様である。事業の将来性が暗い場合、いくら同族経営の責任があるとはいえ、自分の子供を一生苦労させるような事業承継はしたくないだろう。
日本企業の経営環境は極めて厳しく、国内市場は縮小傾向にあり、外国企業との価格競争は激化している。このような経営環境では、老舗企業の存続は容易ではない。将来的に会社が倒産すれば、子供が事業承継しても、株式の価値はゼロ、借入金の個人保証などで大きな負債を抱える危険性もある。
子供に難しい会社を継がせるか、現金だけ遺すべきか
このような難しい状況で事業承継を考える場合、
(1)会社を売却して現金化するか
(2)株式を承継させて会社経営を任せるか
以上二つの選択肢を比較しなければならない。子供に難しい会社を継がせるべきなのか、現金だけを遺してやるべきか、企業オーナーには、親としての難しい判断が求められる。
この意思決定において考慮すべきことは、将来キャッシュ・フロー比較である。すなわち、相続財産として子供が受け取る将来キャッシュ・フローとして、(1)親族外承継(M&A)の対価として残された現金と、(2)株式を相続した子供が将来受け取るであろう役員報酬や配当金を比較し、どちらが有利になるかを計算してみることである。
株式相続の場合、子供は株式を承継するため、役員報酬や配当金を永続的に受け取ることができる。したがって、株式を承継するために相続税(または贈与税)さえ支払えば、将来キャッシュ・フローを永続的に得る権利を取得することができる。
これに対して、親族外承継(M&A)した後に現金を相続する場合、子供が承継するものは、多額の金融資産(現金)である。もちろん、相続税(または贈与税)の支払いは必要であるが、子供は、一時金として多額の現金を受け取ることになる。受け取った後の資金運用は子供の自由である。
子供の観点から比較すると、株式相続と現金相続の違いは、キャッシュ・フロー発生のタイミングにある。
株式相続の場合、相続税という現金支出が先行するが、その後の現金収入は、会社が倒産しないかぎり長期にわたって続く。それに対して、現金相続の場合、相続時に多額の現金収入が発生するものの、その後の現金収入はない。
つまり、親族外承継(M&A)して現金相続するということは、配当や役員報酬などの将来キャッシュ・フローを現金で先取りすることといえる。つまり、親族外承継(M&A)とは、「将来キャッシュ・フローの現金化」なのである。
したがって、子供に会社を継がせるべきか、親族外承継(M&A)して現金化すべきか、判断を迷う場合には、子供が得られる将来キャッシュ・フローの正味現在価値が大きいほうを選択すればよい。
会社の将来性が期待されるのであれば、株式を相続して将来キャッシュ・フローを承継すべきということになる。逆に、将来性が期待されないのであれば、先代のうちに親族外承継(M&A)して将来キャッシュ・フローを現金化すべきということになる。つまり、将来キャッシュ・フローの大きさ、それを生み出す会社の将来性・収益性が判断基準となる。
この点、会社の将来性・収益性を左右するものが、後継者となる子供の会社経営に対する意欲と能力の有無である。
子供が会社経営に関心がない場合、たとえ成長性のある事業を承継しても、倒産させてしまう危険性がある。そのような場合、先代のうちに徹底的に後継者教育を行う必要である。
それでも後継者に見込みがない場合は、先代のうちに親族外承継(M&A)して現金化し、賃貸マンションを購入して不動産経営から得られる安定収入を継がせたほうが無難であろう。相続とは、将来キャッシュ・フローを確実に引継ぐことなのである。
「割引現在価値」と「売却価格」の比較も行う
複数の事業を営んでいる場合、そのうち一つの事業を営む子会社を売却するケースがある。子会社が売り手となる親会社から切り離されることで、親会社に様々な財務的な影響を与える。
プラスの影響は、売却によって得られる現金対価である。これに対して、マイナスの影響は、将来得られるはずであるキャッシュ・フローを失うことである。
本社費の負担や経営指導料の支払いとして親会社が獲得していたキャッシュ・フローが失われてしまう。逆に、対象会社が赤字であった場合は、将来発生するはずであったマイナスのキャッシュ・フロー(現金支出)が回避できるというプラスの影響になることは言うまでもない。
この将来キャッシュ・フローについては、売却せずに売り手が自ら事業運営を継続する場合の損益予測を行って、割引現在価値と売却価格との比較を行うことが望ましい。
この点、対象会社は、何らかの理由で本業とは関係ないと位置づけられた事業であるため、売り手がその事業を継続運営する場合に得られるキャッシュ・フローは、その実現可能性が低いはずである。
自ら事業運営することによって得られる将来キャッシュ・フローの割引現在価値は、売り手が運営するリスクを加味して高い割引率を適用すべきであろう。
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