今回は、米国エンダウメントの今後について考察します。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

エンダウメントの運用益は「非課税」だったが・・・

米国の大学財団であるエンダウメントは、原則その運用益に対して非課税とされてきました。その理由は米国内国歳入庁(IRS)が定める、2つの規定のいずれかになります。

 

(1)エンダウメントは、IRSが非課税団体として認可する大学の一部であること。

(2)エンダウメント自身が非課税団体の認可を受けていること。

 

どういった団体が非課税対象となるかはIRSが規定していますが、特に慈善事業や教育事業は非課税とされています。また、こうした団体に寄付した寄付金は課税対象とはならないため、寄付者は所得から寄付金分を控除できるようになっています。

 

 

●新税導入法案に、対象大学は怒り心頭

 

非課税団体として認可されているエンダウメントですが、昨年12月の米国連邦議会において、共和党が大規模減税法案の担保として、エンダウメントに対する課税法案を提出し議会を通過しました。2018年から課税が始まる見込みで、課税対象となるエンダウメント(大学)は、学生数が500人以上で、運用資産が学生一人当たり50万ドル以上の大学となっています。

 

東部のアイビーリーグの有名校はもちろん課税対象となっており、全米では35の大学およびエンダウメントが対象とされています。新税の税率は1.4%で、年間の運用収益に対して課税され、新税によって得られる税金は、10年間で約1900億円の税収になると試算されています。

 

以前からその噂はあったものの、ほぼ突然に連邦議会で可決された新税導入に、各大学は怒り心頭です。新税が、いわゆるトランプ大規模減税のために導入されることから、「金持ちを助けて、教育を犠牲にしている」と怒り心頭です。

 

ハーバード大学のファウスト学長は、この3月に他48大学と連名で議会に新税廃案を促す書簡を送り、翻意を促しています。(一方で、巨大エンダウメントは毎年多額の政府補助金を得ている。下記図表参照)

 

[図表]私立大学/州立大学の学生一人当たりに対する政府補助金額:米国マサチューセッツ州(2014年)

(グラフ出典:Is It Time to Tax Harvard’s Endowment? By Jordan Weissmann)
(グラフ出典:Is It Time to Tax Harvard’s Endowment? By Jordan Weissmann)

 

課税率は運用収益に対し1.4%ですから、決して運用額の1.4%を税金として持っていかれるわけではありません。例えば、ハーバード大学エンダウメントが年間4兆円の資金を運用して年間10%のリターンを計上したとすると、56億円(4兆円×10%×1.4%)が税金となります。運用資産額に対しては約0.13%分(13bp)が税金となる計算です。

 

運用資産と比べて金額的には小さいと思えますが、13bpも対価なしに支払うことを考えれば、その分で優れた助言業者を雇うこともできます。そもそも、大学の教員への給与支払いや維持費に費やしたほうが、よほど大学経営には効果的です。

 

運用リターンは税金分低くなりますし、税金支払うためには現金を持っておくか、保有資産の一部を売却して現金の捻出をしなければなりません。また新税の導入如何にかかわらず、エンダウメントは毎年運用資産の約5%を大学に拠出しています。たとえ13bpでも、大学経営者としてはできるだけ税金は払いたくないのが本音でしょう。

課税対象にならないよう「逃げ道」を探す大学

●エンダウメント税が導入されると学生数が減る!?

 

大学としてもいろいろ知恵を絞って、新税の課税対象大学にならないような逃げ道を作りそうです。例えば、

 

◆(小規模大学の場合)学生数を500名未満に抑える。

◆学生一人当たりの資産額を500千ドル未満に抑えるため、一部資産を別のエンダウメントに移管する。  

◆課税対象がnet investment income(投資純利益)となっているため、実現利益か未実現利益か不明。従って、キャッシュフローが生まれない投資対象に、一部資産をシフト。

 

 

このように、政府課税当局と大学の知恵比べは始まったところですが、税金を払って教育水準が落ちたと言われないように、米国の各大学関係者は戦々恐々としている今日この頃です。

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