そもそも「縁組意思」を証明するものとは何か?
前回の続きです。
(3)解説
①判決が言わんとすること
本判決は、節税のために養子縁組をすることと、養子縁組の意思(社会通念に照らして、親子と認められるような関係を創設しようとする意思)は両立し得るとし、本件養子縁組について、養子縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はないことから、養子縁組は有効と判断したものです。
どのような事実があるから、あるいはどのような理由から、「養子縁組をする意思がないとは言えない」と判断したのかははっきりしませんが、これは、養子縁組の無効確認訴訟においては、縁組意思がないことについて、縁組の無効を主張する側に証明責任があるからであるとされています(つまり、本件では縁組意思がないことについての証明がされていないといっているわけです)。
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■縁組意思がないことについては、縁組の無効を主張する側に証明責任がある
②どのような事実があれば縁組意思があるといえるか
どの程度の事実があれば縁組意思ありといえるのかですが、節税目的で養子縁組をした場合でも、次の❶、❷の条件が備わる場合は、縁組意思ありとして養子縁組を有効としてよいのではないかと思われます。
❶親子としての精神的なつながりを持とうとする意思が若干でもある。
❷親子関係から発生する主要な効果である次の3つのうち、1つでもよいから養子縁組の目的としている。
a:監護教育
b:扶養
c:相続
ただし、その養子縁組の成立を認めることが、一般社会通念からみて明らかに社会生活上の倫理、親子関係の倫理に反する場合は、縁組意思を認めず、養子縁組を無効とする場合もあるというべきでしょう。
したがって、節税のみを目的とし、養子は、実際には相続財産を承継しないという約束があるとか、養親の死後離縁することになっているなどという場合は、縁組意思なしとすべきでしょう。また、一気に数人を養子にしたという場合も、縁組意思なしとされる可能性が高いでしょう。
反面、節税目的が主たる目的であっても、孫(養子)に実際に財産を承継させる意思があり、また、孫の親に何か事故があったときは、親に代わって孫の監護教育をするという程度の意識があれば、縁組意思ありとして、養子縁組を有効としてよいのではないかと思われます。
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■縁組意思の判断
●親子として精神的つながりを持つ意思がある
●監護教育、扶養、相続の1つでもよいから目的としている
●親子関係の倫理に反しない
相続税の節税は資産継承において現実的で判決は妥当
③養子縁組を否認されないための環境整備
相続が起こったときに、税務署から養子縁組を否認されないためには、書籍『相続に活かす養子縁組』第1章三で述べたような縁組意思があったことを立証できるようにしておくことが必要です。たとえば、次のようなことをしておくとよいでしょう。
●養子縁組を行った経緯について、養親が文章に書き保管しておく。その中では、孫の親に何か事故があったときは自分(養親)が親として監護教育、扶養するとか、自分の財産を相続分にしたがって、孫に相続させるなども書いておくとよい。
●養子縁組を行ったことを、周囲の親戚に話し周知しておく。
●子供の養育費の一部を定期的に親の口座に送金する。
●養子縁組をして節税をしようという程度の財産がある資産家は、遺言書を作成しておくべきであるが、その中で、養子となった孫に何を相続させるかを明記しておく。
④まとめ
現在の相続税法のもとでは、高額の資産を保有すればするほど、急激に相続税率が上がる累進課税となっており、3代相続が続けば資産はなくなるともいわれています。しかし、特に地方の場合、資産家といわれる人の多くは、もともとは農業に従事しており、たまたま、その農地が市街化区域内に編入されたことによって、何十億円もの資産を保有することになったという方が多いと思われます。
資産といっても、先祖代々受け継いだ農地だから、自分の代でなくすことはできない、子孫に承継させるのが義務だと考えており、土地を売却して現金に変えようという意識はほとんどありません。このような現実のもとでは、孫を養子にして相続税を節税しようと考えるのも無理からぬ話であり、縁組意思をあまり狭く考えるのは現実にそぐわないというべきで、この最高裁の判決は妥当なものと考えられます。