今回は、養子縁組によって発生した相続争いの事例と、その予防策について見ていきます。※本連載は、弁護士である森田茂夫氏、榎本誉氏、田中智美氏、村本拓哉氏の共著『相続に活かす養子縁組』(日本法令)より一部を抜粋し、相続税対策として「養子縁組」を活用する際のポイントを解説していきます。

「財産相続・節税」のための養子縁組も無効ではない

養子縁組は、嫡出親子関係を創設する制度です。したがって、養親の死亡による相続発生により、子である養子も、実子と同じ法定相続分を有します。

 

相続人の順位または相続分の割合を変更(操作)するためになされた養子縁組が紛争(=争族)になった事例はたくさんあります。

 

そもそも、民法上は、すべて相続人は法律によって定められています(法定相続主義)。この法定相続人は、被相続人の死亡により、民法の定める順位に応じて、法律上当然に相続人になります。

 

被相続人が、法定相続人以外に相続人を定めることはできませんが、養子縁組を用いて、法定相続人となる関係を作り出すことは可能です。

 

ところで、現在においては、財産の相続が養子縁組の主要な効果ですから、財産相続を目的とする養子縁組も、一概にこれを否定できないのはもちろん、最高裁平成29年1月31日判決(書籍『相続に活かす養子縁組』第4章一)は、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに縁組意思がないとはいえない(つまり、養子縁組は有効)としています。

 

他の目的が併存する場合でも養子縁組が有効とすると、実子と養子とで、自らの権利を主張し合うことで、遺産分割協議がより紛争化し、相続争いに発展する可能性があります。

遺留分に配慮した「遺言書」の作成を

(1)事業承継のための養子縁組

 

たとえば、事業承継を図るために養子縁組をした両親、家業とは別の職業に就いた実の息子である兄とその妹、そして、事業承継を託した婿養子である妹の夫がいるとした場合、この状態で養親の父が死亡して相続が発生すると、相続権を有するのは、配偶者である母と、子である兄、妹、妹の夫である婿養子の4名となります。

 

この場合、配偶者は2分の1、子は残り2分の1を3名で等分することから、6分の1ずつの相続権を有することになります。

 

その後、配偶者母も死亡した場合、相続人は子のみですので、それぞれが、3分の1の相続分をもつことになります。そうすると、妹夫婦が合わせて3分の2の相続分を有することになりますから、これに納得できない兄が遺産分割協議において難色を示し、家庭裁判所の調停などで争いになることが容易に考えられます。

 

このような場合、遺産分割協議が難航することに配慮して、父あるいは母が、あらかじめ遺言書を作成しておくことが考えられます。これによって、特定の者の相続分を多くすることもできますし、誰が何を取るかを指定することもできます。

 

ただ、遺言書を書いても、相続人の遺留分を奪うことはできませんから、争いを避けたければ、遺留分に配慮した遺言書を書くことが不可欠となります。

 

 

■養子縁組によって、相続人が増えることによる争族

⇒遺言書の作成による予防(ただし遺留分は奪えない)

 

(2)長男の嫁との縁組

 

たとえば、夫の母と暮らす妻があり、その後、夫に先立たれましたが、姻族関係を終了させずに、その後も義母と同居し、長年にわたって、義母の介護を献身的に尽くしてきました。そして、義母と夫の妻とが養子縁組をしていたとします。その後、義母が死亡した場合の相続において、義母の実の子供と、養子である夫の妻との間で、争いが生じる可能性があります。

 

実子は、(法律の裏付けはありませんが)実子だという理由からより多くの遺産の取得を主張し、夫の妻は、長年、夫の母の介護をしてきたことから特別の寄与を主張して、多くの遺産の取得を主張した場合、遺産分割協議が紛糾する可能性があります。

 

このような場合にも、遺産分割協議が難航することに配慮して、あらかじめ遺言書を作成しておくことが考えられます。

 

また、この場合に、夫の妻の寄与を考慮して、夫の妻に多くの相続分を与える場合には、実子の遺留分を配慮した遺言をすることが不可欠となります。

 

 

■息子の妻を養子としたことによる争族

⇒遺言書の作成による予防

 息子の妻に多くを与える場合、実子の遺留分に注意

本連載は、2018年1月1日刊行の書籍『相続に活かす養子縁組』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続に活かす養子縁組

相続に活かす養子縁組

森田 茂夫,榎本 誉,田中 智美,村本 拓哉

日本法令

養子縁組にまつわる法的問題と、制度活用時のポイントを解説。 平成29年1月31日、最高裁は、節税を目的とする養子縁組の有効性を認めた。 本書は、この判決を契機として、養子縁組をする際の法律上の制約、養子縁組の意思…

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