「縁組意思」がポイントになるのは確かだが・・・
(1)判例
節税目的の養子縁組の有効性については、平成29年1月31日に最高裁判決が出ましたが、この判決が出るまでに、いくつかの下級審の判決がありました。上記の最高裁判決の前に、まず、これらの下級審判例について、簡単に触れます。
①東京高裁平成12年7月14日決定
原審判は、本件養子縁組が相続税の負担を軽減する目的で行われたとするが、当該養子縁組がそのような動機のもとに行われたとしても、直ちにそのような養子縁組が無効となるものではない上、本件記録によっても、本件養子縁組が養親子関係を設定する効果意思を欠くものであるとはいい難く、本件養子縁組をもって無効であるということはできない。
節税目的の動機があった場合でも、節税目的だけではなく、他に親子関係を作ろうとする意思が認められるとして、縁組の有効性を認めたものです。この事例の場合、縁組をした主な目的が相続税の節税にあることは間違いありませんから、この判決は縁組意思をかなり緩やかに考えているということができます。
②東京高裁平成11年9月30日決定
相続税の負担の軽減を目的として養子縁組をしたとしても、直ちにその養子縁組が無効になるものではないし、本件養子縁組が養親子関係を設定する効果意思を欠く者であるとはいい難く、養子縁組をもって当然無効であるということはできない。
この決定も、①の決定と同趣旨であり、縁組意思をかなり緩やかに考えています。
③浦和家裁熊谷支部平成9年5月7日審判
実父母の代諾によって、父方の祖父母の養子となったが、祖父の相続発生後、数年して離縁を申し立てた事例です。この審判では、養子縁組は、相続税の軽減を図るための便法として仮託されたに過ぎないもので、養親と養子の間には、真に社会観念上養親子と認められる関係を設定する効果意思はまったくなかったとして、養子縁組を無効としました。
この審判の場合、相続発生後、数年して離縁しようとしたという点が重要です。このような事実は、養子縁組が単に相続税の節税だけを目的とするもので、親子関係を設定しようとする意思がまったくないことを示しています。親子関係を設定しようとする意思が多少なりともあれば、相続発生後にさしたる理由もないのに離縁するということは考えられないからです。
実子が「縁組意思」の欠如を主張し、無効確認を要求
(2)最高裁平成29年1月31日判決
①事実関係
この最高裁判決(書籍『相続に活かす養子縁組』第4章一)で示されている事実関係は下記のとおりです。
X1は亡Aの長女、X2は亡Aの二女である。Yは、平成23年、Aの長男であるBとその妻であるCとの間の長男として出生した。Aは、平成24年3月に妻と死別した。その後、Aは、平成24年4月、B、CおよびYと共にAの自宅を訪れた税理士から、YをAの養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受けた。その後、養子となるYの親権者としてB、Cが、養親となる者としてAが、それぞれ署名押印して養子縁組届を作成し、平成24年5月、世田谷区長に提出して養子縁組を行った。
ところが、X1、X2が、この養子縁組は縁組をする意思を欠くものであると主張して、その無効確認を求めた。
[図表]
②判決内容
この事案については、原審は、この養子縁組は、もっぱら相続税の節税のためにされたものであるとしたうえで、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして、養子縁組を無効としました。
これに対して、最高裁は、次のとおり判示して、この養子縁組を有効としました。
養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
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■最高裁判決
「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得る。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに縁組意思がないとすることはできない」