今回は、資産移転の方法のうち「死因贈与」と「養子縁組」について見ていきます。※本連載は、弁護士である森田茂夫氏、榎本誉氏、田中智美氏、村本拓哉氏の共著『相続に活かす養子縁組』(日本法令)より一部を抜粋し、相続税対策として「養子縁組」を活用する際のポイントを解説していきます。

贈与者の死亡時、贈与者の財産を被贈与者に移転

前回の続きです。

 

③死因贈与

 

死因贈与とは、贈与者が死亡したときに、贈与者の財産を被贈与者(贈与を受ける人)に移転するもので、贈与者と被贈与者の間で、贈与者の死亡時に、どの財産を移転するということを内容とした死因贈与契約をすることによって成立します。移転する財産が土地や建物などの場合は、死因贈与を原因とする仮登記をしておくこともあります。

 

さて、死因贈与契約をした場合の効力ですが、判例(最高裁昭和47年5月25日判決)によると、死因贈与については、遺言の取消しに関する民法1022条が準用されるので(民法1022条は、遺言はいつでも取り消すことができるとしています)、遺言と同様、いつでも撤回することができるとされています。ただし、死因贈与契約も契約なのだから、一方的に撤回することができないとする学説もあります。

 

また、負担付き死因贈与の場合は撤回することができない場合があるとされています。たとえば、長男は会社に在職中、給料日、ボーナス月ごとに一定の金銭を父に与える、父は死亡時に全財産を長男に死因贈与するという死因贈与契約を結び、長男がすべての義務を履行した後に、父が遺言で死因贈与を取り消した場合、その取消しを認めなかった判例があります(最高裁昭和57年4月30日判決)。

 

このように、死因贈与の撤回についてはいくつか問題があるのですが、遺言と違って常に一方的に取り消すことができるというわけではなく、被贈与者が長年にわたって贈与者の世話を献身的にしてきた、贈与者と被贈与者との間で死因贈与契約が結ばれ、それもひとつの原因となって被贈与者は贈与者の世話を継続してきた、死因贈与した土地建物には被贈与者の仮登記が付いていた、死因贈与の契約書には、契約を撤回できない旨の文言があったなどの事情がある場合には、死因贈与を撤回できない場合もあるというべきです。

 

死因贈与については、税法上は贈与税ではなく相続税が適用されますので(ただし、受贈者が配偶者および一親等の血族である場合を除き、相続税が2割程度加算されます)、贈与をする場合の贈与税と比べて、税金は大幅に安くなります。

 

死因贈与にはこのような特徴がありますので、扶養を期待して財産を譲渡するというような場合、土地などについて死因贈与契約をし、被贈与者(世話をしてくれる人)の仮登記を付けておくというのもひとつの選択肢かと思います。

 

 

■死因贈与は遺言と違い、いつでも撤回できるとは限らない

■死因贈与をする場合は相続税ですむ

効力が強く、一方的な解消が困難な「養子縁組」

④養子縁組

 

扶養を期待して財産を譲渡する、あるいは扶養はともかくとして財産を譲渡したいという場合、贈与、遺言、死因贈与などの方法があることは上述のとおりで、それぞれに特徴がありますが、養子縁組もそのひとつの方法です。

 

養子縁組をすると、養子は養親を扶養する義務を負うことになりますし、また、養親の財産を子として相続する権利を有することになります。

 

また、養子縁組をすると、養親も養子も、養子縁組を一方的に解消することはできず、合意によって離縁する場合を除き、離縁するには、離婚と同様に次のような事由が必要です。

 

一 他の一方から悪意で遺棄された。

二 他の一方の生死が3年以上明らかでない。

三 その他、縁組を継続しがたい重大な事由がある。

 

したがって、贈与、遺言、死因贈与をする場合と比べて、養子縁組の効力ははるかに強く、また一度養子縁組をすると、その解消も簡単ではないということになります。

 

 

■養子は養親を扶養する義務と、養親を相続する権利を持つ

■養子縁組の解消は容易ではない

本連載は、2018年1月1日刊行の書籍『相続に活かす養子縁組』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続に活かす養子縁組

相続に活かす養子縁組

森田 茂夫,榎本 誉,田中 智美,村本 拓哉

日本法令

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