今回は、養子縁組に関連した資産移転の方法の1つである「遺言」について見ていきます。※本連載は、弁護士である森田茂夫氏、榎本誉氏、田中智美氏、村本拓哉氏の共著『相続に活かす養子縁組』(日本法令)より一部を抜粋し、相続税対策として「養子縁組」を活用する際のポイントを解説していきます。

「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の違いとは?

②遺言

 

遺言は、お世話になっている人に、将来(自分が亡くなった時に)財産をあげたい、相続人間の取り分を法律とは違った形にしたい、財産をどのように分けるかを明確にして、遺産をめぐる争いを防止したいなどという場合に使われます。

 

遺言にもいくつかの方式がありますが、主なものは自筆証書遺言と公正証書遺言です。

 

自筆証書遺言

○遺言者が、自筆で作成する遺言です。

○便箋やノートに遺言を書いてもかまいません。

○遺言者が、遺言全文、日付、氏名を自署し、署名の下に押印しなければなりません。

○遺言書の内容を変更する場合、遺言者がどこの箇所を変更したかを付記して、その部分に署名し、かつ、変更した箇所に押印しなければなりません。

 

公正証書遺言

○公証人が作成する遺言です。

○公正証書遺言をするには、証人2人以上の立会いが必要です。

○公証役場に支払う作成費用がかかります。どの程度の作成費用がかかるかは、相続人の数、財産の内容、遺言書の内容などによっても異なりますが、たとえば遺産の額10億円として、作成費用は30万円~40万円程度です。

 

どちらの遺言を作るかですが、次のような理由から、公正証書遺言がよいとされています。

 

理由1)遺言を作るときは、遺言によって遺贈する財産をきちんと特定して遺言書に記載しなければなりませんが、自分で書く自筆証書遺言の場合、財産の特定が不十分で、遺言書が無効になってしまうことがあります。

 

理由2)自筆証書遺言を発見した人が、その遺言の内容が自分に不利になっているなどの理由で、遺言書を隠したり、破棄したりしてしまえば、それで遺言書は闇に葬られてしまいます。この点、公正証書遺言の場合は、遺言の作成に立ち会った2名の証人は、公正証書遺言の存在をもちろん知っていますし、また、公証役場には公正証書遺言の原本が保管されていますから、遺言書が闇に葬られるということがありません。

 

理由3)自筆証書遺言の場合、裁判所で検認を受けなければなりませんが、裁判所に出向いて検認の申立てをしたり、戸籍謄本などの添付書類をそろえたり、相続人が裁判所に呼び出されたり、手間が大変です。

 

理由4)公正証書遺言の場合、公証人が遺言をする人に判断能力があることを確認していますから、後に、「遺言をした時点で遺言者には判断能力がなかった」と争われても勝訴できる可能性が高いです。

「遺言」はいつでも書き換え可能だが…

お世話になっている人に、将来(自分が亡くなった時に)財産をあげたいというような場合、公正証書遺言を作って、お世話になった人に報いるというのはひとつの方法です。ただし、遺言書というのは(公正証書遺言でも同様です)、いつでも取り消すことができますし、遺言を書いたのちに、さらに遺言を書けば、後に書いた遺言が優先します。この意味で、遺言というのはいつでも書き換えることが可能です。

 

たとえば、遺言を書いたことが相続人の1人に分かってしまった場合、その内容が自分に不利なものであると考えた相続人は、遺言の書直しを、遺言を書いた人に迫るかもしれません。ですから、遺言を書いたことは秘密にしておかなければなりません。

 

この意味で、遺言は不安定なところがあるのですが、反面、状況が変わってきた場合に、いつでも書換えができるというのは利点と考えることもできます。

 

 

■自筆証書遺言より公正証書遺言

■いつでも書換えができるというのは、悪い点でも良い点でもある

本連載は、2018年1月1日刊行の書籍『相続に活かす養子縁組』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続に活かす養子縁組

相続に活かす養子縁組

森田 茂夫,榎本 誉,田中 智美,村本 拓哉

日本法令

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