基本財産への拠出は避け、「通常財産」に設定を
〔1〕基本財産と通常財産
基金として拠出した財産は「基本財産」又は「通常財産」のいずれかに分類されます。
土地・建物などの不動産を拠出する場合は基本財産にすることが望ましいとされていますが、すでに述べた通り、基本財産にしてしまうと、処分するには定款変更を要し、手続きが非常に煩雑になります。可能な限り、基本財産への拠出は避け、すべて通常財産に設定することをお勧めします。
〔2〕財産種別ごとの考え方と注意点
①不動産
前述の通り、不動産はできる限り基金として拠出しないほうがよいでしょう。拠出ではなく、相場で賃貸するか簿価で売却することをお勧めします。
万が一、拠出する場合は、評価額は不動産鑑定評価書又は固定資産評価証明書の額になります。簿価ではないので、税務上、注意が必要です。仮に評価額が簿価を下回る場合は損をすることになりますし、逆に評価額が簿価よりも高い場合は、拠出に伴って譲渡所得が生じることになるため拠出者に所得税・個人住民税が課税されます。また、諸条件を記載した契約書類等も必要となります。
なお、担保権が設定されている不動産は権利関係が不安定であるため、拠出することはできません。
②現預金
現預金を拠出する場合は、原則、預金残高証明書を添付する必要があります。拠出額は、預金残高証明書の範囲内に設定してください。万が一、拠出額に満たない場合は、入金をした上で預金残高証明書を発行してください。
なお、預金残高証明書を発行するには手数料がかかるほか、即日発行してくれるケースもあれば数日かかるケースもあります。ゆうちょ銀行は手数料が安く対応も早いのですが、大手銀行は発行に時間がかかる傾向があります。
残高証明書の日付は、基準日はありませんが、「発行から3か月以内のもの」と指定する自治体が多いです。
③医業未収金
医業未収金を拠出する場合は、直近2か月分の診療報酬等の決定通知書の写しを添付します。具体的な月の指定はない場合が多いので、その際は最新のものを提出すれば問題ありません。
④医療用器械備品
基準日まで減価償却後の簿価で拠出します。
現物拠出の価額の総額が500万円を超える場合は・・・
⑤什器・備品、その他の有形固定資産
一括償却資産及び少額減価償却資産であっても、拠出を認める自治体もあります。また、医療機器や什器・備品の確認の書類としては、固定資産台帳のほかに、毎年市町村に提出する「償却資産申告書」もあります。償却済で固定資産台帳にないものの存在を説明したい場合は、償却資産申告書が根拠になる場合もあります。
⑥電話加入権
昔の名残で行政の様式には例示として出てくることがありますが、実際は2,000円(国税庁が定める財産評価基本通達)又は時価ゼロ円なので、今時載せる意義はありません。
⑦医薬品、診療材料等
決算時棚卸表をベースにした在庫リストを添付して簿価で拠出するのが一般的です。
ただし、神奈川県などは必ず拠出するように指導されますが、東京都や静岡県などでは医薬品、診療材料等の拠出は認めていません。
⑧建物賃貸借のときの保証金
建物の賃貸借契約を引き継ぐ際、必ず保証金も引き継ぐことを求める自治体もあります。例えば東京都では、必ず保証金も基金として載せるよう指導されます。なお、金額は契約書に保証金の償却に関する条項がある場合は、償却後の金額になります。
ただし、保証金の拠出を必須としている自治体以外では必ずしも保証金返還請求権を基金拠出する必要はなく、法人で新たに保証金を差し入れる計画でも構いません。むしろ、基金の拠出額を減らすという意味では、「基金として載せなさい」と指導されない限りは載せる必要はないと思います。
〔3〕現物拠出の価額が相当である旨の税理士等の証明
現物拠出の価額の総額が500万円を超える場合は、弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人による現物拠出財産の価額が相当である証明が必要です。
なお、証明する税理士・公認会計士等が、設立手続代理人の行政書士(税理士等資格を持った行政書士)と同一人物であっても構いません。