企業が継続的に成長していくためには、新規事業参入への検討も必要です。今回は、新規事業におけるCFOの役割について見ていきます。

B/SとP/L作成によるシミュレーションがやはり有効

同じ手法は新規事業への参入を判断する場合にも有効だ。会社が持続的に成長をしてく上で、既存事業の衰退リスクは常に意識していなければならない。現在の基幹事業に衰退リスクがあるのであれば、そのリスクをカバーするために、新規事業への参入も検討すべきだろう。


最も参入しやすいのは、既存事業のノウハウや販路を活かせる事業であることは言うまでもない。販売計画が立てやすく、業界事情もわかっているので、将来の見立てが立てやすく、全社の理解も得られやすいからだ。一方、まったく異なる分野への進出である場合は、その分野の市場規模や競合状況、自社の既存事業や販路、経営資源との整合性を考慮して検討しなければならない。


新規事業が立ち上がって収益に貢献するまでの間の時間や赤字額は、どのくらい許容できるのかは、会社が上場しているかどうかによっても変わってくるが、当面のキャッシュフローのマイナス幅は、自己資本と既存事業のキャッシュフローで穴埋めできる範囲に留めるのが原則である。

 

自社で新規事業を育てる方法以外に、企業買収や事業買収によって異分野に参入する方法もある。この場合は、既に人材をはじめとする必要な経営資源は一通り揃っているが、買収対象の将来性を検証して買収を決めるわけだから、市場規模や競合状況などからその将来性を検証し、自社の既存事業とのシナジー効果がどの程度見込めるのかを検証する必要がある。


また、買収価格を詰める上で、買収対象が現在生んでいるキャッシュフローだけでなく、むこう何年間にわたってどのくらいのキャッシュフローを生むことが可能かの検証も必要になる。


その際に、余剰な経営資源を抱えているのであれば、その処理やテコ入れにかかるコストも考慮し、その上で買収に必要な資金のみならず、買収後に必要となる資金も含めて、その調達方法を考えなければならない。自社で参入するにせよ、M&Aを使うにせよ、新規事業についてもB/SとP/Lを作成するシミュレーションが、有効であることは間違いない。

入り口は広く、ロスカットルールは明確に

新規事業投資を行なう上で、あらかじめロスカットルールを決めておくことも重要である。ロスカットルールはその新規事業の発案者が社長であろうと、担当役員であろうと、“お目こぼし”をしないという覚悟が必要である。


新規事業の当面のキャッシュフローのマイナス幅は、自己資本と既存事業のキャッシュフローで穴埋めできる範囲に留めるのが原則であるということは既に述べたが、この範囲で収まらなくなったらロスカットに踏み切るというのが一般的なルールである。


創業者のヒラメキからはじめた新事業が、当初は他の役員から猛反対されながらも後に大成功を収めたという事例は、過去にいくつもある。サラリーマン社長よりも事業意欲旺盛な人物が創業者には多く、過去にとらわれない発想から生まれるヒラメキを頭から無視することは、飛躍の機会を奪うことになりかねない。新規事業はある意味賭けであっていいわけだが、入り口を広くとる以上は、ロスカットルールを厳格化することでバランスをとらねばならない。


だからこそ、新事業という賭けに負け続けた場合、何年くらいは既存事業で食いつなぐことができるのかを計算しておくこと、そして負けが許されないところまできたときに、毅然とロスカットルールに従って撤退の意思決定をリードすることも、CFOの重要な仕事なのである。

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    本連載は、2010年3月1日刊行の書籍『CFO経営 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    佐藤 英志,須原 伸太郎

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