金融機関が見るのは「資金使途」と「返済原資」
意思決定した戦略を実行に移すにあたって、効率的かつ効果的に資金を調達することもCFOの重要な役割である。
資金調達には間接金融による調達(金融機関からの借入れ:デットファイナンス)と、直接金融による調達(資本市場からの調達:エクイティファイナンス)がある。
間接金融、つまり金融機関借入れは、金融機関との間で金銭消費貸借契約書を締結するだけなので、企業にとって最もポピュラーであり、かつ手間暇のかからない調達手段である。ただし、手間暇がかからないというのは、あくまで事務上の手間暇がかからないというだけで、融資に応じてもらうための説明まで簡単だというわけではない。
日常の運転資金レベルの調達だけでなく、既存事業への設備投資資金、さらには新規事業への投資資金の調達においても、金融機関借入れは企業にとって重要な調達手段である。金融機関は資金使途と返済原資を見てお金を貸す。借りる側の心得として忘れてはならないのは、「利益を生むような使途のために借りる」というのが正しいお金の借り方だという点である。一方的に出て行くだけの経費は、利益で支払うのが大原則である。
この原則に基づいてお金の貸し手の立場に立つと、融資した資金が、その会社がより多くの利益を生むための設備投資などに使われ、なおかつその設備投資計画が妥当なもので、計画通り利益を生み、その利益からの返済が十分可能だろうと判断できれば、融資に応じる、ということになるのである。
【図表1】資金調達の主な類型
調達目的物と返済原資のヒモは結びついているか?
言うまでもなく、企業にとって必要な資金は設備投資資金だけではない。日常必要な運転資金を安定的に調達するということも、企業にとって極めて重要なミッションである。
売掛金の回収サイクルと、買掛金の支払いサイクルがぴたりと一致したり、買掛金の支払いサイクルが売掛金の回収サイクルよりも長い、というのは理想ではあるが、現実にはなかなかそううまくはいかない。
買掛金の支払いサイクルが売掛金の回収サイクルよりも短い場合に、その一時的な資金繰りの補填のためにだけ借りるのが、本来の短期借入金の正しい借り方である。B/Sの左側のうち、流動性が高い流動資産の調達は短期借入金を、流動性が低い固定資産の調達は長期借入金を使う。この原理原則、大抵の経営者は耳学問としては知っていながら、目先の利益に惑わされ、破ってしまうことが実に多い。また、不動産や金融商品のように、流動資産だと思っていたものが市場の浮き沈みにより流動資産でなくなってしまうこともある。
【図表2】お金のサイクルを合わせる
長期金利よりも短期金利が低いからというだけの理由で、固定資産の取得のために長期で借りていた借入金を、安易に短期に切り替えたら、あるいは、そもそも短期で借りていたものを、長期の投資に使ってしまっていたらどうなるか。その結果がリーマン・ブラザーズの破綻であり、昨今のドバイ・ショックであった。
その固定資産が十分な営業CFを生む状態になっているのならともかく、まだ営業CFを生むようになるのに時間がかかるとしたら、あっという間に期限がやってくる短期借入金の返済原資を、一体何で賄うつもりでいるのか。このあたりの目算がないまま、安易に短期借入金に切り替えたり、短期借入金の使い道を誤ってしまう経営者は決して少数派ではない。特に安易な切り替えは、資金繰りに比較的余裕がある、業績が好調な時にやってしまう傾向にある。
借入金は、調達目的物と、返済原資のヒモをきちんと結びつけておくことが大原則だ。この設備投資のために借りたお金は、この設備が生む利益で返す、というのが基本である。わずかな金利差のためにこの原則を破ると、意思決定を図った戦略の実行に齟齬をきたすもとになるのである。